研究課題/領域番号 |
01044141
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 東京国立文化財研究所 |
研究代表者 |
三輪 嘉六 (1990-1991) 東京国立文化財研究所, 修復技術部, 部長 (00222422)
伊原 恵司 (1989) 東京国立文化財研究所, 修復技術部, 部長
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研究分担者 |
石川 陸郎 東京国立文化財研究所, 保存科学部, 主任研究官 (30000459)
門倉 武夫 東京国立文化財研究所, 保存科学部, 主任研究官 (10000457)
新井 英夫 東京国立文化財研究所, 保存科学部, 室長 (00000456)
川野辺 渉 東京国立文化財研究所, 修復技術部, 主任研究官 (00169749)
西浦 忠輝 東京国立文化財研究所, アジア文化財保存研究室, 室長 (20099922)
増田 勝彦 東京国立文化財研究所, 修復技術部, 室長 (40099924)
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研究期間 (年度) |
1989 – 1991
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研究課題ステータス |
完了 (1991年度)
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配分額 *注記 |
7,300千円 (直接経費: 7,300千円)
1991年度: 2,900千円 (直接経費: 2,900千円)
1990年度: 2,400千円 (直接経費: 2,400千円)
1989年度: 2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
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キーワード | 中国 / 砂漠地帯 / 文化財保存 / 自然環境 / 機器計測 / 敦煌莫高窟 |
研究概要 |
敦煌莫高窟の南よりの最上部(三層目)に位置する194窟と、北より最下部(一層目)の53窟で環境条件の計測を行なった。194窟の大きさは奥の部屋で概ね3.6m四方、高さ約3.3mで莫高窟としては小さな方で、入口右手にはさらに小さな側洞(195窟)を持っている。これに対し53窟は比較的大きな窟で、縦、横、高さ(天井の一番高い部分)とも約6.5m、やはり北側に小さな側洞(469窟)を持っている。469窟については開封前の窟内環境を推定するために、入口をポリエチレンシ-トと毛布で封じて測定を行なった。 温度の測定には白金測温抵抗体(Pt 100Ω)、相対湿度の測定には高分子薄膜型湿度計、窟外風速の測定には風車型自記風速計、窟内風速の測定には熱線式微風速計、日射量の測定には電気式直達日照計を用いた。測定間隔は、1989年から1991年5月までは2時間(測定回数12回/日)、1991年5月からは1時間(測定回数24回/日)である。測定値はデ-タロガ-に記録した。測定値の読みだしは、ほぼ半年毎に携帯型コンピュ-タで行ない、現場でフロッピィディスクに記録して持ち帰り解析した。 窟内の気温は奥に行くほど年変化の幅が外気温に比べて小さい。日変化についても外気の年平均日較差が約8℃であるのに対して、194窟前室で約2℃、194窟、195窟、53窟いずれも約1℃と小さくなり、特に入口を封じた469窟では気温の日変化はほとんどなくきわめて安定している。 194窟内の日較差の季節による変化を調べると、秋から冬にかけては窟上部の月平日較差は1℃以下なのに、窟下部では約2.5℃と大きくなる。湿度の月平均日較差も窟上部では3%程度なのに、窟下部では6%前後と大きい。同じ傾向は、温度に関して53窟でも見られる。194窟の床面近くで測定した風速を調べると、秋から冬にかけての風速が春から夏にかけての風速より大きい。これらのことから、秋から冬にかけては冷たい外気が、床面を通って窟の中に入ってきていると考えられる。外気温が内部より高くなる春から秋にかけては逆の現象がみられ、暖かい外気が窟の天井を伝って窟内に入ってきて、窟上部の気温に影響を与えていると考えられる。 これらの測定結果を考慮すると、窟内には気温の変動にともなう緩やかな空気の流れが季節を通じて存在して、壁面からの水分蒸発を促進し、後に述べるような塩類風化を引き起こす一因になっているのではないかと思われる。 窟内の湿度は、日変化こそ外気にくらべて小さいが、年変化でみると外気の変化幅とほとんど変わっていない。入口を封じた469窟内の湿度の年変化幅も、外気と同じかむしろ大きい。窟内の湿度が外気よりも高い6月から7月は、ときおり雨が降る季節であることを考慮すると、窟内の湿度は雨水などの地中水によって支配されているのではないかと考えられる。 1991年5月から10月にかけて約半年間測定した、194窟天井と53窟床に開けた穴の中の湿度を見ると、洞窟内の湿度が30%前後であるのに対して地中湿度はどちらも常時75%前後と、砂漠地帯にしてはきわめて大きい。194窟では上からの雨水の影響、53窟では下からの地下水の影響があることをうかがわせる。 日本でも磨崖仏や装飾古墳などで、石や壁の表面が湿っていて空気が乾いている場合は、壁面から水分が蒸発して塩類が析出し表面を傷めるいわゆる塩類風化が起きることがある。莫高窟は乾燥地帯にあるが、地中の相対湿度が空気中より常に50%ほども大きく、しかも壁面の下地である岩石中には多量の塩分が含まれているので塩類風化の危険性は大きい。壁面を調べてみると、194窟では食塩の析出による壁面の斑点状の剥落、53窟でも硫酸カルシウムの析出による剥落など、地中水に起因したと思われる壁面の損傷が見いだされた。特に194窟は天井部を石膏様のもので新しく補修しており、それが原因となって塩類風化が促進されている可能性が強い。
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