研究課題/領域番号 |
01044155
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 国立予防衛生研究所 |
研究代表者 |
小山 力 国立予防衛生研究所, 寄生虫部, 部長 (70072874)
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研究分担者 |
保阪 幸男 国立予防衛生研究所, 寄生虫部, 客員研究員 (60072873)
梶原 徳昭 山梨県立衛生公害研究所, 生物研究部, 研究員
荘 和憲 山梨医科大学, 助手 (90154682)
太田 伸生 岡山大学, 医学部, 助教授 (10143611)
影井 昇 国立予防衛生研究所, 寄生虫部, 室長
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研究期間 (年度) |
1989
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研究課題ステータス |
完了 (1989年度)
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配分額 *注記 |
4,000千円 (直接経費: 4,000千円)
1989年度: 4,000千円 (直接経費: 4,000千円)
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キーワード | 日本住血吸虫症 / 洞庭湖 / 疫学 / 免疫病理学 / 肝癌 / B型肝炎 / イデオタイプTリンパ球反応誘導 / 中間宿主貝の撲滅 |
研究概要 |
本共同研究事業は、1987年度に始まり、1988年度より本格的に実施するに至ったもので、洞庭湖周辺における日本住血吸虫症の疫学的研究、中間宿主貝のコントロ-ルに関する研究および同症の免疫病理学的研究が実施されている。現在までの調査研究、とくに1989年度の成果の概要は以下のようである。 1.パイロット地区の再選定と疫学的研究:前年度調査したパイロット地区は、本研究の目的に必ずしも合わないと考えられ、再びその選定を含め、調査が進められた。今年度新たに本症流行状況の異る3地区として選定されたのは、(1)流行最盛地区である益陽県明朗山村(A地区)、(2)低流行地として益陽県黒湖州(B地区)および(3)流行終息途上地区として岳陽県東風湖郷(C地区)である。 A地区は本症の極めて濃厚な感染地で、住民の感染率は現在でも65.4%である。洞庭湖中にある島で、中間宿主貝の感染率は1.2%〜1.4%であるが、貝の棲息密度が極めて高く、住民の治療を実施しても、再感染のためにヒトの感染率は低下しないのが現状である。 B地区は住民の感染率が12.1〜18.3%の中等度感染地区であり、中間宿主貝の感染率は0.16〜0.21%である。かっては貝の棲息密度が高かったが、撲滅効果により現在では低密度となり、住民の感染も低下傾向にある。 C地区は洞庭湖岸にある漁村で、1959年以来の本格的な撲滅事業により、1988年には血清の検査(COPTおよびIHA)で6.5%という低率の陽性者が現われるのみとなり、中間宿主貝もほとんど発見されない状況である。 各地区の虫卵陽性者には、Praziquantelによる治療を実施した。治療グル-プについては、治療前後の血清の検査を実施しているが、そのうち30名をとくに選び、ELISA法による治療効果判定を試みた。現在までに虫体および虫卵抗原を使用し、治療後6カ月の抗体価検査が行なわれたが、治療後はいずれの抗原に対する抗体価も明らかに低下すること、とくに虫卵抗原に対する抗体価の低下が著明であることがわかった。このことにより、ELISA法による血清検査が治療効果判定に効果的であると考えられた。 2.中間宿主貝のコントロ-ルの研究:中間宿主貝に対する3種薬剤(Cartap,ChlorothalonylおよびTribromosalan)の殺貝効果を実験室内および野外で検討中である。この3種薬剤が我が国の中間宿主貝(Oncomelania nosophora)に対し、有効であることはすでに証明されている。室内試験成績については一部今後の検討を要するものの、おおむね中国における中間宿主(O.hupensis)に対してもほぼ同様の効果が期待されている。野外における試験では、Cartapが注目すべき高い効果を示したので、その実用性に関しさらに追究中である。 同貝の生物学的コントロ-ルを目指し、貝寄生性原虫の検索を行なっている。現在までにMicrosporeaの胞子と考えられる一種が検出され、その生物学的特性と貝に対する病原性などについて検討中である。 3.免疫病理学的研究:本症既往者の抗イデオタイプTリンパ球の反応誘導性を指標として感染濃度、感染後の経過および臨床症状などの分析のため、患者血清を虫卵抗原特異的Tリンパ球に添加培養し、その増殖反応を試験した、その結果、少数例ではあるが、本症の慢性経過中に急性症を再発した特殊な患者の例で、ELISA法により虫卵抗原に対し著しく高い抗体価を示し、しかもそのイデオタイプTリンパ球反応誘導活性があることがわかった。これに対し他の慢性患者で肝硬変併発例では、その活性はみられなかった、このことにより、本試験法は本症の免疫病理学的解析に好適であることが示唆された。 前年度に引き続き、原発性肝癌の発生病理に関連する本症とB型肝炎との関係について調査した。これまで肝癌の成因には、本症とB型肝炎の両因子が関係すると指摘されてきたが、今回の多数例についての検討により、中国の本症流行地における肝癌の発生病理には、本症がB型肝炎より強い関連を有することが示唆された。我が国の本症流行地においても、肝細胞癌と本症およびHB_s抗原との関連について再検討し、肝細胞癌の成因に本症が有意に関与すること、またHB_s抗原との関連では、中国の本症流行地におけるそれと同様の傾向であることなどが示唆された。
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