研究概要 |
1)神経細胞移動異常におけるシナプシス形成障害. 神経細胞は胎児期に増生,移動,定着そして成熟する.大脳半球の肥大と皮質の多少脳回が認められる片側巨脳症に免疫組織化学的およびゴルジ染色を行い,脳軟膜内へのグリア,神経細胞および髄鞘のヘテロトピアを認めた.皮質表層部には小神経細胞と変形した細胞があり,深部には多くの樹状突起とスパインを有する巨大細胞が多数認められた.このことは神経細胞の異常増生,移動障害と肥大を意味し,成長因子の異常を示唆している.臨床的には早期の外科的治療が有効と思われる(Pediat Neurol).神経細胞移動異常の典型例である滑脳症を免疫組織化学的に検索し,深部細胞層と表層細胞層の間の無細胞層にはシナプトフィジンが特異的であり,アストログリアは血管周囲に見られるに過ぎないために,表層細胞は早期に移動停止した深部細胞層の分子層を貫通して,その外側に形成されると推測される(Pediat Neurol).神経細胞移動異常の樹状突起,シナプシス形成の発達的観察のうち代謝異常を伴うZellweger症候群では免疫組織化学でペロキシゾ-ムの欠損が証明され,髄鞘の形成遅滞,細胞移動障害による神経細胞ヘテロトピアと多少脳回,大脳皮質ニュ-ロンの樹状突起形成,スパイン減少が認められたペロキシゾ-ム異常と脳形成・成熟異常との関連性は血管形成の面より検討中である(Brain Res,Brain Dev). 2)アミノ酸代謝異常におけるシナプシス形成異常. 悪性フェニルアラニン血症やmaple syrup urine diseaseでは,深部の大脳皮質ニュ-ロンが逆転,斜め,水平などの配列異常を示し,スパインの減少もみられた.この配列とシナプシス形成の異常はニュ-ロンの移動終了後の成熟過程に生じ,出生前の代謝異常が関与しているものと考えられた(Pediat Pathol). 3)脳幹のカテコラミンニュ-ロンの発達と異常 胎児から小児にかけて,脳幹のカテコラミンニュ-ロンの発達を免疫組織化学的に観察し,胎児早期に成熟し,機能分化していた.先天性中脳水道狭策では,ニュ-ロンの未分化やニュ-ロピルの未発達がみられた.中脳水道狭策による水頭症のほかに,Chiari奇形にも免疫組織化学的染色を行い,Chiari奇形の脳幹には異常が少ないが,アストログリアの減少が認められ,成因と関連し,興味深い。 正常の胎児,新生児および乳児では,延髄呼吸中枢のニュ-ロン樹状突起のスパインは胎児期に増加し,生後に減少する。乳幼児突然死症候群ではスパインの生後の減少が遅れることを認めた.更に,延髄の腹外側にあるカテコラミンニュ-ロンのシナプシス発達も遅れていた.従って、乳児突然死の機転に呼吸,循環ならびに睡眠覚醒パタ-ンの発達の異常が示唆される(Neuropediatr).脳幹梗塞例の中脳,橋および延髄にtyrosine hydroxylaseとサブスタンスP(SP)の免疫組織化学的染色を行い,カテコラミン神経細胞の異所的変化とSPの増加を認めた.これらの症例は臨床的な突然死や無呼吸であり,組織化学的異常は神経性呼吸・循環調節異常と関連していると考えられる(Pediat Neurol). 4)21番染色体,精神遅滞と早発老化. 大脳皮質の神経細胞樹状突起のスパインは出生頃から急速に増加するが,ダウン症候群では、生後の増加が少なく,シナプシスの発達遅滞があった(Brain Dev).また,シナプシスの減少も対照より早く、アミロイドの早期出現と早発痴呆と関係深いと考えられた.さらに、21番染色体コ-ドの遺伝子の特異的蛋白の抗体を作製し、免疫組織化学的に検討し、ダウン症候群の側頭葉に発現しやすいことが分かった(Develop Brain Res)。染色体21番に遺伝子があるSuperoxide dismutaseを免疫組織化学的に観察し,SODの免疫組織化学的発現は胎児中期に起こり,成人の加令では減少傾向にあった(Brain Dev).神経細胞樹状突起発達の遅れの機序を見るために,21番染色体にあるSー100を発達免疫組織化学的に検索した.Sー100は新生児と老人の側頭葉に増加し,精神遅滞との関連性が疑われた(Pediat Pathol).本症のシナプシス形成遅滞にはいくつかの因子が関与していると思われる.
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