研究課題
国際学術研究
本研究の目的は、広島県における救急患者搬送システムとしてヘリコプタ-の導入を企図し、既にヘリコプタ-による救急患者搬送システムを運用しているオ-ストリア国グラ-ツ市の実情を調査することであった。平成元年10月に、二名の研究者と一名の研究協力者がオ-ストリア国を訪問し、グラ-ツ市とウイ-ン市の救急医療システムの実情を調査することができた。また12月に一名の研究者をグラ-ツ市より招聘し、広島県の救急医療システムの実情を紹介して情報交換をすることができた。オ-ストリアでは各都市により救急医療システムは若干異なるが、全般的にドクタ-カ-やヘリコプタ-を導入して医師がプレホスピタルケアから患者搬送まで積極的に関与していたことは注目すべきことである。わが国でも将来考慮すべきことであろう。グラ-ツ市の救急医療システム:グラ-ツ市は、人口25万人を擁するオ-ストリア第二の都市である。救急業務を統括しているのは赤十字センタ-で、消防組織とは完全に分離されている。救急患者発生時の受信センタ-は赤十字センタ-内にあり、2名のオペレ-タ-が24時間体制で対応している。グラ-ツ市には、患者搬送を行なう救急車30台、医師も同乗しあらゆる医療機器を備えた“動くICU"2台、ドクタ-カ-(4人乗りの乗用車で患者搬送はできない)2台、夜間の軽症救急患者のみ診療するドクタ-カ-4台、ヘリコプタ-2機(内1機は予備)が整備されている。“動くICU"およびドクタ-カ-に同乗する医師は大学病院の各科専門医であり、軽症患者用のドクタ-カ-に同乗する医師は医師会に所属する一般医である。外傷などの重症患者の受け入れ病院は、グラ-ツ大学医学部附属病院と労災病院となっている。ヘリコプタ-2機はグラ-ツ市の空港に常駐して、緊急出動に備えている。空港敷地内には救急専用の通信指令室と同乗する医師ならびにパイロットのための個室が設備されている。この他、緊急時に備えて大量の医薬品、食料、飲料水などが貯蔵されている。ヘリコプタ-は、パイロット、搭乗医、救急隊員、患者1名を搬送することができる。また事故現場(道路上、サッカ-場などの空き地など)に自由に着陸できる許可が与えられており、受け入れ側の2病院には、各々屋上に専用ヘリポ-トが設置されている。搭乗医は大学病院の麻酔科医が数ヵ月毎のロ-テ-ションで毎日空港に待機している。近郊の山岳地帯における遭難登山者の救助活動も行なう。夜間および悪天候時は危険であるため出動しない。オ-ストリアでもグラ-ツ市のみが採用している救急システムとしてランデブ-方式がある。この方式は緊急事態発生に対して、まずドクタ-カ-が出動し現場で救急車と合流するというものである。またこの医師の要請があれば、“動くICU"あるいはヘリコプタ-が現場へ出動することになる。ウイ-ン市の救急医療システム:ウイ-ン市は、人口100万人を擁するオ-ストリアの首都である。ウイ-ンはグラ-ツと異なり、60人の医師が24時間体制で勤務する救急センタ-があり、ドクタ-カ-32台、搬送を行なう救急車7台、医師が同乗する救急車20台を整備している。特筆すべきことは特別な救急車として核汚染患者用、感染患者用、新生児患者用各1台を常備していることである。受信センタ-は救急センタ-内にあり、4名のオペレ-タ-と1名の医師が対応している。また赤十字センタ-、その他の組織にも救急車がそれぞれ整備されている。ヘリコプタ-は市内警察署の屋上ヘリポ-トに待機し、主として二次搬送を担っている。広島市の救急医療システム:広島市は、人口100万人を擁する制令指定都市である。救急業務は消防組織のなかで行なわれている。受信センタ-は消防局内の通信指令室にあり、4人の消防隊員が最新のコンピュ-タ-を駆使して対応している。医療研修を受けた救急隊員が同乗する救急車32台、平成2年度から運用される多目的用途の14人乗りヘリコプタ-1台が整備されている。ヘリコプタ-は広島空港に常駐し、山火事、ビル火災、救急患者搬送など多目的に使用される。大型機であるため着陸場所の選択が問題であるが、大学病院に隣接する広島県警察学校の校庭に着陸することが可能であるため、緊急時には患者を直接大学病院に搬送することが可能である。
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