研究概要 |
沖縄のショウガサンゴの有性生殖について詳細な観察を行ない以下の新知見を得た。沖縄のショウガサンゴは,4月から6月まで3カ月間,月齢周期に同調して満月後の1週間にプラヌラ幼生を放出することが分かった。生殖巣形成はコロニ-内,コロニ-間で同調しており,精巣は1月末に出現して,3月中旬に成熟を始め,6月中旬まで存続した。卵巣は10月中旬に出現して,3月中旬から成熟を始め6月中旬迄存続した。プラヌラ幼生は4月始めから6月末にかけて出現し,1月かけて成長して,4,5,6の各月の満月から新月にかけて3回にまたがって放出された。精巣は完全隔膜の基部中央に,卵巣は不完全隔膜の中央部の隔膜糸近くにできる。これらの結果を現在,紅海,パラオでの報告,そしてグアムでの観察結果と比較して解析している(山里)。 沖縄産ナガウニ4タイプについて,形態学的,発生学的,細胞遺伝学的知見から,別種とすべきであるという結論に達し,国際棘皮動物会議シンポジウム(1990)で報告した。沖縄にはA,B,C,Dの4種(現在種名を検討中),グアムにはAとBの2種,ハワイにはBとD種が産することが確認された。さらに沖縄とハワイ産のD種については,交配実験と精子の外形の違いから別種であることが明らかになった。沖縄産D種にグアム産B種を交配させた時と,沖縄産B種を交配させた時とでは受精率に大きな差があることから,グアムと沖縄産B種では,地理的隔離による受精レベルでの種分化が起りつつあることが共唆された。沖縄とグアムのガンガゼ科4種の殻形態の比較調査で,時にトックリガンガゼモドキにおいて,顕著な地理的変異がみられた。また,ガンガゼモドキ属の新種と思われるものがグアムにおいて見つかり現在詳細な研究を進めている(上原)。 イシサンゴの骨格の形態は環境により変異するので,異なる環境あるはい異なる地域に生息するサンゴが同種であるのか別種であるのか判定が困難であることが多い。今回そのような場合に刺胞の形態比較が有効ではないかと考え,サンゴの分類における刺胞の利用について研究を行なった。Stylophora mordaxは,ショウガサンゴStylophora pistillataの生態変異型と考える人と別種であるとする人がいる。グアムでは前者は普通にみられるが後者を採集するのは困難である。沖縄では後者は普通にみられるが,前者は少ない。沖縄産のS.pistillataとグアム産のS.mordaxについて,触手にみられる特徴的な刺胞であるholotrichous isorhizasの形態を比較したところ,長さ,幅,長さと幅の比の3つのパラメ-タ-でそれぞれ0.1%の危険率で有意差がみられた。このことは,S.pistillataとS.mordaxが別種である可能性を示唆する。また沖縄のアザミサンゴでは,共骨の密度の異なる2つの変異型がみられるが,これらの変異型間でも,触手に含まれる刺胞の形態に明確な差がみられ,別種であると考えられた。これらの結果は,同一組織内の同じ種類の刺胞の形態の比較が,サンゴの分類に有効であることを示している(日高)。 ミドリイシ類のサンゴの生殖および生殖に及ぼす陸地から流入する赤土の影響について調べ以下の結果を得た。赤土はサンゴの受精率を有意に減少させた。赤土の流出している河口近くから採取した水中(塩分濃度28.5パ-ミル,懸濁物量1.28グラム/リットル)でミドリイシの受精卵を飼育した場合には,プラヌラ幼生にまで発生する卵は,対照群の5%にまで減少した。また雌雄同体のサンゴでは,自家受精が行なわれることがあるが,自家受精率は,放卵後の時間とともに増大すること,サンゴの種間交配の実験を行なった結果,精子と卵をそれぞれどちらの種からとるかによって受精率が異なることが分かった(リッチモンド)。 サンゴの群集および個体群構造を調べ,さらに生物生産量に及ぼす捕食者の影響を調べるために,グアムと沖縄のそれぞれ3地点に水深3mと5mの所に実験区を設定した。その結果,地点間で,サンゴ群集および個体群構造および生物生産量に顕著な差がみられた。現在総合的見地からそれらのデ-タを解析中である(酒井,バ-クランド)。
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