研究概要 |
感情障害,とくにうつ病の発症機構を分子レベルで明らかにする目的で,抗うつ薬の作用機序に深く関わる,β_1アドレナリン受容体(β_1AR)の遺伝子を分子クローニングし,構造解析を行った。 ヒトβ_1AR相浦DNA(cDNA)Sma I断片1.3-kb(kilobase pair)をプローブに用い,2.5×10^6個の独立したクローンから構成されるヒト胎盤ゲノムライブラリーからプラークハイブリダイゼイション法により,8系列のゲノムクローンを得た。その中で,ゲノムクローン1は約4-kbの5′非翻訳領請,1.4-kbのβ_1AR構造遺伝子領域,約1.4-kbの3′非翻訳領域にわたる6.8-kb Sac I断片を含んでいた。このSac I断片をBam HI,Sma I,Pst I消化後,得られた断片をpUC18にサブクローニングし,single stranded DNA結合蛋白存在下にジデオキシ反応を行い,試料を6%ポリアクリルアミドゲル電気泳動法にて分離し,塩基配列を決定した。 ヒトβ_1ARcDNAの構造と比較すると,ヒトβ_1AR構造遺伝子領域にはイントロンが存在しなかった。翻訳開始点より5′上流約1.3-kbまではGC含有量が非常に多く,数ヵ所のSp1結合部位(GCボックス),AP-1結合配列,AP-2結合配列などの転写活性調節因子結合部位が存在したが,明らかなTATAボックスを欠いており,いわゆるハウスキーピング遺伝子の構造を呈していた。 しかし,さらに5′上流には明らかなTATAボックス,CAATボックスが存在し,さらに数ヵ所のGATA結合部位,甲状腺ホルモン応答部位,エクトロゲン応答部位,グルココルチコイド応答部位,cAMP応答部位などの転写活性調節部位が存在し,β_1AR遺伝子の複雑な転写活性調節機構の存在が示唆された。 加えて,5′非翻訳領域には,ヒトβ_1AR構造遺伝子領域からおよそ100塩基の介在をもって,アミノ酸残基344からなる未知蛋白質の遺伝子が存在していた。
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