研究概要 |
本研究に関する3年間の研究成果の概要は,以下の通りである. 1.本研究の主要な目的は,動物の仔殺し行動の近接要因を解明するために,仔殺し行動がどのようにして抑制されるか,ある個体が仔殺しを現し他の個体が仔殺しを現さないのは何か,そして仔殺し個体が自仔を養育するのは何故かについて,諸実験が行われた. 2.近交系マウスの中から代表的な系統を用いて行った仔殺し・仔育てテストの結果,C57BLとBALBマウスは「仔殺し系統」,DBAマウスは「無視系統」,C3Hマウスは「仔育て系統」と類別することができた.どの系統においても,仔育ては雌に多く,仔殺しは雄に多く現れた.また,生後60日齢から160日齢にかけて仔殺しが現れた. 3.仔殺し系統のBALBマウスは,交尾した雌の産んだコドモは喰い殺さないで養育した.この結果から,親子関係に関する行動原理を提案した. 4.次に,この行動原理を検証するために行われた実験において,BALB系統の仔殺し雄は交尾した雌の出産予定日である19日目から20日目にかけて,仔殺し発現率を激減し仔育て発現率を増加することを見いだした. 5.さらに,仔殺し雄が自仔を養育するのは,自仔と他仔を識別する能力があることを実験的に検証した.仔殺し系統のC57BLマウスを用いて行った実験において,同腹自仔と同腹他仔の識別が嗅覚的手がかりと味覚的手がかりによることを見いだした. 6.以上の実験成果は,他の動物においても見いだされている事実であり,仔殺しの抑制は仔認知の行動的メカニズムと関係していることを考察した.さらに,動物の仔殺し行動は,個体の適応度を高めるだけではなく,親が自仔とか血縁個体の生存を保障するための投資であることを血縁理論から論証した. 7.動物の利他行動は,個体にとっては損失であるにも拘らず,その個体と血縁関係にある子孫の生存にとっては何らかの相互的利益をもたらす行為であるから進化したと考えられる.しかしながら,この考えでは,人類におけるインフアントサイドの原因は説明できない.この点を含めた研究として,今後は利他行動に関する比較心理学的考察をまとめる予定である.
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