研究概要 |
本研究は社会的平等・不平等の問題をたんに社会的資源配分の格差から研究するのではなく,また収入や資産などの水準の差といった量的格差の問題に還元するのではなく,生活の質の相違および生活観の差異から把握することを試みた。そのための分析素材として労働組合の協力で得た組合員意識調査結果をまず用い,そこから次のような知見をひきだした。(1)収入による社会的格差は大きく存在していると認知されているが、その格差は〈不公正〉だとは思われていない。(2)住宅・資産,政治的影響力の面での格差は大きいと認知されているが,この格差は〈不公正〉だとみなされている。(3)教育機会や医療サ-ビスへのアクセスの面では社会的格差はあまりないと認知されており,しかもこの面で格差があるのは〈不公正〉で望ましくないとみなされている。それゆえ人々が日本社会を不平等だと認知するさいには,その公正観に媒介されて資産や政治的影響力にかんする格差感が大きく響いているといえる。(4)人々の生活価値として「経済的豊かさ」は「福祉」や「自由」や「安全」や「達帯」や「平等」よりも低い位置にある。したがって「経済的豊かさ」は平等感を大きく左右する要因というよりもむしろ,客観的な格差認知のレベルにとどまる。以上のような意識調査結果とともに,われわれは生活の地域環境とその変動のなかで生活の質を再構築する試みを,社会的平等・不平等の文脈で追求し,テクノポリス構想のなかで産業リストラクチァリングとの抱きあわせで生活の質の向上を目指している事例(浜松市)と,地元の自然と人智を土台とした村おこし運動によって生活改善に取り組んできた事例(天竜市熊地区)の観察と分析を行い,それらの営為の社会的平等化にとっての意味を把握した。なお,社会的平等・不平等について〈公正〉観を媒介として国際比較調査を試み,そのパイロットスタディを行ったが,他国との連絡に問題があり完結をみない。
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