研究概要 |
繊維強化複合材料積層板の確率材料設計法を体系化するため,平成3年度は,1)多層積層板の確率強度評価法の検討,2)積層板の破損機構の実験的検討,3)確率材料設計法のための設計定式化,の3点に焦点を絞って研究を進めた. その結果,積層板内の任意の層の破損が他の層の破損に及ぼす影響をふまえた破損シミュレ-タを開発した.このシミュレ-タでは,最初に積層板に加わる荷重状況により,どこかの層が破損すると,その層の応力伝達機能が損なわれるものとして,応力再解析を行い,その結果求まる面内ひずみによって,他の層の破損確率を再評価できるようになった.これより,従来求められなかった,多層積層板の逐次破損プロセスを追跡しながら,各層の破損する条件付破損確率を評価した.また,このような条件付破損確率が求まれば,各破損プロセスの全体の生起確率は近似的にせよ,組み合わせ数理計画法の応用として精度よく求まることも示した. さて,確率材料設計法では何といっても破損則が極めて大切である.このための努力としては,各種条件下での複合材料の破損デ-タの蓄積と破損現像の解明が重要となる.こうした目的により,破損確率評価法の開発と平行して複合材料の破損現象の解明のための研究も進めた.これらの研究は,一方向材の破損機構の検討,多層積層板の破損様式と積層構成の関連,アコ-スティックエミッション法に基づく複合材の破損様式の解明の3つの分類に大別され,いづれも静的荷重条件のみならず,衝撃や疲労といった動的な荷重環境下においても実施され,それぞれの条件における破損機構をある程度明らかにした. ところで,確率材料設計法を完成するには,こうした安全性の尺度である破損確率を設計規範の一つとしてとり込み,加えて設計時の要求にみあう条件下ですべての設計変数を決定する方法論が必要となる.こうした背景のもとに,設計支援ル-ツとなるべく,破損確率を安全性制約として取り込む,設計における意志決定法の研究も推進した.残念ながら,時間の関係上,確立した方法論の提案までは至らなかったが,従来の展望や解決すべき問題点と必要とされる方法論は明確にしえた.
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