研究概要 |
等価なすべり系の少ない単純なモデル合金として,多結晶体の変形に必要な5つのすべり系の活動を一次すべり系だけでは満たすことのできないマグネシウム-アルミニウム多結晶固溶体を選択し,高温における塑性変形挙動を実験的に明らかにした.本研究のモデル合金であるマグネシウム-アルミニウム固溶体の高温クリープでは,ひずみ速度の温度依存性が異なる温度域の存在すること,それぞれの温度域で,ひずみ速度の応力依存性が異なることが明らかにされた.低温域で確認される応力依存性の異なる領域間の遷移は,立方晶固溶体に比べて不明瞭であった.ひずみ速度の溶質濃度依存性も変形条件によって異なる.透過電子顕微鏡による変形後の転位組織の観察結果によれば,温度域によって活動する転位のバーガースベクトルが異なる.低温域ではa転位の活動が主であるが,高温域ではa+c転位の活動が顕著である.低温域での転位線形状の応力依存性からはすべり面によって溶質雰囲気が転位から離脱する条件が異なることが示唆された.これらの実験的に得られた高温変形挙動の遷移条件について,結晶構造,すべり面,拡散の異方性を考慮したモデルに基づき,転位のまわりの溶質濃度分布および転位の受ける粘性抵抗について数値計算を行ない,準定量的に検討を加えた.さらに,結晶粒の配向に強い方向性のあるマグネシウム-アルミニウム固溶体のクリープ特性の遷移挙動におよぼす応力負荷方向の影響を実験的に明らかにした.これらの結果を総括して検討し,低温域で観察される応力域間の不明瞭な遷移は,転位の溶質雰囲気からの離脱が段階的に進行するためと結論された.以上総括し,等価な一次すべり系の少ない多結晶固溶体では,すべり面によって溶質原子と転位との相互作用が異なり,巨視的変形挙動の様相も立方晶固溶体とは異なることが明らかにされた.
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