研究概要 |
本研究の目的は強誘電性高分子の低温における圧電性と焦電性を研究して,それらの起源を解明するとともに,低温用超音波変換素子材料としての性能を評価し,これを低温超音波トランスジュ-サに用いて機能性材料の低温超音波物性を研究することにある.このために,最低8Kまで冷却可能なクライオスタットを設置し,また位相比較法による超音波精密音速測定装置を組立てた.これらを用いた研究により,次の結果を得た.(1)強誘電性高分子であるPVDF,P(VDFーTrFE),P(VDFーTrFE)では,誘電率εと弾性率cは温度に強く依存するが,その積εcと電気機械結合係数ktは,室温から低温(8K)までほぼ一定である.このことから,強誘電性高分子の圧電性が強誘電性と結合した電歪に起因し,その電歪定数は温度依存性がないことが分かった。(2)P(VDFーTrFE)は極低温でも高効率(kt=0.3),高周波,広帯域特性をもつ優れた超音波トランスジュ-サ材料である.(3)P(VDVーTrFE)は低温でも高い焦電出力電圧をもつ,高効率の焦電素子となる.低温での比熱と焦電率の温度特性を,3次元と1次元振動子に対するDebyeの振動子理論を適用して定量的に説明できた.(4)ハイドロキノンとメタノ-ルの包接化合物結晶が68Kに1次の相転移点をもつ強誘電性物質であることを見いだした.(5)P(VDFーTrFE)を超音波変換素子に用いて,PVDF,P(VDFーTFE),液晶高分子(LCP),炭素繊維複合材料,酸化物超電導体など,高機能材料の音速,吸収を測定した.P(VDFーTrFE)ではラメラ間の滑りによる吸収が15ー40Kに,PMMAでは30K以下に酸素に結合したメチル基による回転吸収が見いだされた.LCPでは,分子鎖配向方向と垂直方向の音速と吸収とその温度依存性に強い異方性が特に低温で見いだされた.(6)P(VDFーTrFE)の強誘電性分域構造,結晶成長についても各種の手段で研究し,多くの有用な知見が得られた.本研究で蓄積した技術と知見は今後,研究の展開に役立つ.
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