研究概要 |
チェルノブイリ原子炉における大事故は,大きな反応度投入により圧力管が破壊したことがその起因事象であった.しかしながら,本来,十分な強度を有する圧力管が破壊に至るような急激な加圧がどんな機構で発生し,どんな圧力挙動をしたのかについて解析的検討がなされているが,それらは未だ実験的に検証されていない.本研究では急激な熱入力の場合の過渡沸騰現象,燃料の溶融・分散挙動の観測とともに発生圧力挙動や破壊エネルギ-について,加熱・流体条件および加熱流路の束縛条件の影響を実験的に調べ,これらを基に解析コ-ドを開発することを目的とした.実験では,大容量コンデンサ-に蓄えた電気エネルギ-を燃料要素を模擬した金属棒に数msで放電,ジュ-ル加熱し,非定常沸騰時の熱伝達特性,発生圧力と機械的エネルギ-を調べた.その結果,長い流路においても単なる燃料要素が形状を保持しているかぎりはどんな急速な加熱でも破壊にいたる圧力は発生し難いことを明らかにした.これは急激な熱入力では燃料表面は加熱の初期に蒸気膜でおおわれ,熱の冷却材への流れが阻害されるためであり,この場合,発生圧力や機械的エネルギ-の極大値をあたえる最適熱入力が存在する.しかし,燃料の溶融が伴う場合には,急激な加熱ほど溶融燃料の微粒化と分散が急速に起こり,同一熱入力では溶融しない場合に比べて,1桁以上も大きな圧力と機械的エネルギ-が発生すること,更に,本実験装置の熱入力限界まで熱入力とともに増加する傾向を示した.また,発生圧力のピ-クは溶融・分散の初期に生じるために加熱部の長さは,圧力のピ-ク値にあまり関係がなかった.更に,高速度カメラによる観察を基に,溶融・分散に伴う伝熱面積の増加とこれによる非定常温度境界層の減少を考慮した表面ストレッチモデルを提案した解析モデルを開発した.今後改良の余地があるが,発生圧力挙動や発生する機械的エネルギ-について,この解析モデルの数値計算結果が実験結果を説明できることを示した.
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