研究概要 |
本研究は,光学活性な金属錯体でイオン交換した粘土表面では,金属錯体が立体規則的に配列していることを走査トンネル顕微鏡によって確かめることをめざしたものである。そのために,走査トンネル顕微鏡を製作し,粘土膜を観察することを目的とした。 走査トンネル顕微鏡を製作することができた。製作した装置は次の性能を持つことを確かめた。分解能はグラファイト試料を用いた結果ではXY軸(水平)方向で0.1A^^゚,Z軸(垂直方向)0.2A^^゚であった。試料ホルダ-は水平であるので試料に液滴をたらし,その上に探針をつけて液体に接した固定表面を観察することが可能である。定電流掃引の場合には1000A^^゚のスキャンに約5分間を要するが,定位置掃引では10秒以内でスキャンできる。この結果時間的に不安定な表面についても像が得られる。 製作した装置を用いて種々の固体表面を観察した。グラファイト(HOPG)は再現性の良い像を得ることができた。得られた結果は従来報告されているものと一致した。粘土薄膜でおおったグラファイト面を観察した。粘土膜が厚いとトンネル電流が流れず,像は全く得られない。十分薄い粘土膜では,下地のグラファイトの像が見られる。このことより,粘土膜を透してグラファイト面からトンネル電流が流れることがわかった。その他の固体表面としては,硫化モリブデン,硫化タンタルを観察した。これらの表面のイオウ原子による像を得ることができた。 以上の結果により,粘土膜上の分子を走査トンネル顕微鏡で観察する可能性が得られた。
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