研究概要 |
フレ-ムレス原子吸光においては目的元素と炭素との反応性,多孔貭な炉壁への試料溶液の浸透や生成原子の拡散が原子化機構に大きく関与している。本課題の研究では炉材中に試料溶液や生成原子が浸透しないメタル炉やメタルコ-ティング炉の感度の周期性及び原子化機構を速度論的に考察し,黒鉛炉と比較しながら,原子吸光の絶体定量法へのアプロ-チを目標とすると共に,メタルコ-ティング炉の環境試料及び生体試料への応用を試みた。得た結果は次の通りである。 1、黒鉛炉にタングステンをコ-ティングした(W-)炉について感度を比較した。W-コ-ティングは従来浸漬法が用いられていたが,当研究では単にNa_2WO_4水溶液を100ul炉に注入し,原子化サイクルで焼き付けるだけで充分増感効果があることを見い出した。この炉はSn,Ta,Si,に有効で,とくにSnに対しては有機溶媒マトリックスで生じるダブルピ-クの発生を完全に押え,Siに対しては有機ケイ素に有効であった。 2、単純なマトリックスからなる標準溶液中のSnに対しては,パイログラファィト炉(PG炉)にW-コ-ティングしたW-PGがPG炉に比べて5、8倍の増感を示して最良であるのに対して,スズの生体試料に対しては非パイログラファィト炉(NPG)にコ-ティングしたW-NPGが最良で,複雑なマトリックスに対して有効であった。これはNPGの表面の多孔性により保持性がよく,充分灰化が出来るためと考えられる。 3、海水中のスズについては前処理なしでは定量が不可能であったが,W-NPG炉とマトリックス修飾剤としてPd(11)を用いると,灰化温度1700℃で10/0吸収感度が0、028ngで定量が可能となった。 4、W-コ-ティング炉を用いれば液体以外の有機ケイ素と無機ケイ素の高感度定量が可能となった。いずれの場合にもSiO_<2(s)>→SiO_<(s)>→SiO_<(g)>→Si_<(g)>の原子化機構を取ることを明らかにした。
|