研究概要 |
本研究の成果は次の4項目にまとめることができる。 1.遷移金属とリン間に二重結合を持つ錯体の合成と反応性:種々のアミノ置換ホスファイトP(OR)_n(NR_2)_<3ーn>とCr,Mo,Wの錯体をBX_3と反応させることによって、金属ーリン間に二重結合を持つ陽イオン錯体を得た。この錯体はP上のアミノ置換基が多い程、置換基同士がキレ-トしている程、またCr→Wに行く程安定であった。 2.遷移金属ホスホネ-ト錯体の合成と反応機構:種々のアミノ置換ホスファイトP(OR)_n(NR_2)_<3ーn>とピアノ椅子型ハロゲン鉄錯体Cp(CO)_2FeClとのアルブゾフ型脱アルキル化反応によって、この反応の中間体と考えられる陽イオン錯体[Cp(CO)_2Fe{P(NR_2)Y(OR)}]^+(Y=OR,NR_2)を単離することに成功した。これにOR'^-を反応させるとNR_2^-基が選択的に脱離したホスホネ-ト錯体[Cp(CO)_2Fe{P(O)Y(OR)}]が生成した。このことから、先ずOR'^-がPに求核攻撃して5配位のメタラホスホラン中間体を生成し、これにもう1分子のOR'^-基がapical位にあるOR'基のα炭素を攻撃し、NR_2^-が選択的に脱離するとともにホスホネ-ト錯体が生成する機構を提案した。 3.リン配位子の遷移金属からCp環への転位反応:Cp(CO)LFe{P(O)RR'}をリチウムジイソプロピルアミド(LDA)と反応させると、ホスホネ-トP(O)RR'がCp環へ転位した。この種の反応が15族元素の配位子について見出されたのはこれが最初の例である。また光学対掌体を試料とすることによって反応機構の解明も試みた。 4.遷移金属ホスホネ-ト錯体の光化学:[Cp(CO)_2Fe{P(O)(OEt)_2}]にL=PPh_3,P(OR)_3共存下で光照射を行うとCOが置換した[Cp(CO)FeL{P(O)(OEt)_2}]が生成するが、非共存下ではCOが脱離して空いた配位座にホスホリル酸素が配位した2量体が生成した。この反応は新規錯体の合成手段として有用である。
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