研究概要 |
エチクロプライドはドパミンD2受容体に対して高い親和性と選択性を有するベンザマイド系抗精神病薬の1つである。本研究はPETによるドパミンD2受容体の描出のためのポジトロンリガンドを開発するために,エチクロプライド分子のピロリジン環窒素原子にフルオロアルキル基あるいは4位にフッ素原子を導入したラジオリガンドの創薬を行った。フッ素18(半減期110分,陽電子崩壊)標識体の放射化学合成は,フッ素18イオンを用いたスルホン酸エステル基質との求核置換反応を採用することにより達成した。^3H標識スピペロンとの競合的置換によって,フッ素化合物のドパミンD2受容体に対する親和性をインビトロ下で検討した。Nーフルオロアルキルエチクロプライドはエチクロプライド自身よりも10倍程度親和性が低下した。この事は,フッ素18標識体を用いたラット生体内分布において,遅い血液からのクリアランスおよび低い線条体ー小脳比などからインビボ結合においても親和性の低下が確認された。一方,ピロリジン環の4位にフッ素原子を有するフルオロエチクロプライドは,インビトロにおいてエチクロプライド自身とほとんど変らぬドパミン受容体親和性を示した。フッ素18標識フルオロエチクロプライド投与のラットインビボ結合は,ドパミンD2受容体存在部位に選択的な放射能集積を示した。線条体への集積率は投与後30,60分でそれぞれ0.56,0.47%dose/gであった。線条体ー小脳濃度比は時間とともに増加し,投与後90分で5であった。さらに,線条体への集積は,ドパミンD2受容体の拮抗剤であるハロペリド-ルの前投与によりコントロ-ルに比べて約80%阻害された。しかし,実用的な観点からは,フルオロエチクロプライドは高親和性を維持しているが生体内で脱フッ素化を受けることおよび脳への移行が十分ではないなどの問題を残している。
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