研究概要 |
日本における鶏伝染性気管支炎ウイルス(IBV)性腎症・腎炎は,大部分が育成期のブロイラ-の3週齢以降に発生し,多い時は10%を越す死亡率を引き起こした。 このような現状にあって、我々は1991年3月,北海道の1養鶏場の151日齢と158日齢の卵用種成鶏からIBVを分離した(HB976と仮称)。本ウイルスが分離された鶏群の鶏は,病理学的に腎症・腎炎を呈していた。また,分離ウイルスは強い病原性を持ち,1日齢のSPF鶏に接種すると呼吸器病変と腎病変の双方を示し,高い死亡率を引き起こした。一般に,成鶏からの腎症・腎炎を起こすIBVの分離は稀である。したがって,このようなIBVが分離されたことは,腎症・腎炎が若齢鶏のみならず成鶏にも広く蔓延していることを示唆する。 次に,IBVによる腎症・腎炎の病理発生を解明するため,2株(松田ー2,HB976)のIBVをSPFの雛に接種し,電顕的検索を含めて形態学的に研究した。松田ー2株接種では,接種後3日から10日にかけて死亡例数が見られ,その死亡率は約30%であった。死亡例は典型的な腎症・腎炎を示し,尿細管の電顕検索では,細胞の腫大,ミトコンドリアの腫大・空胞化,ポリゾ-ムの増数,粗面小胞体の拡張が初期的変化であった。この後ウイルス粒子が細胞質の基質,空胞内,自由表面に見られた。細胞によっては,拡張した膜性空胞内に向かってウイルスの出芽像が頻繁に認められた。以上のウイルス増殖に伴って細胞が破壊される一方,ウイルス増殖は活発であっても細胞破壊に致らないものもあった。 HB976株接種実験では,死亡率が極めて高く,接種後4日から8日までの間に約90%が死亡した。死亡例は尿細管腎症と同時に気管炎ならびに肺炎が顕著で,本ウイルスの病原性の強いことが伺れた。このような病原性の強いIBVの分離は,世界各国を通じ数少ない。
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