研究概要 |
細胞増殖誘発の細胞内情報伝達機構を生理学的にとらえる一つのステップとして,哺乳動物卵の受精過程と,未分化血液細胞のサイトカインによる増殖刺激を対象とし,特に細胞内カルシウムイオン(Ca)増加反応に焦点をあて,Ca画像解析を中心とする実験を行なった。ハムスタ-卵に於ける精子・卵結合の信号伝達系は,G蛋白の活性化→イノシト-ルリン脂質の分解→イノシト-ル三リン酸(IP_3)の産生→IP_3による細胞内CaストアからのCa遊離という系を示唆する結果を既に得ていた。本研究では,次のような成果を得た。(1)細胞外因子として,セロトニン(5ーHT)が5ーHT_2受容体を介して上記の系を経てCa増加反応を誘発することを見出した。(2)G蛋白の活性化機構につき,5ーHT・受容体結合と細胞内GTPの協同作用を生理学的に示した。(3)G蛋白の不活化,或は5ーHT_2受容体の脱感作機構として,上記の系から分岐するprotein kinase C(PKC)の活性化がネガティブフィ-ドバックとして抑制的に作用することがその一因であることを明らかにした。(4)IP_3或いはCaイオンを電流パルスにより卵細胞内に微量注入すると,注入部位からallーorーnone的に卵全体に伝播するCa遊離がおこることを示し,IP_3によるCa遊離機構とCa自身によるCa遊離機構の存在を証明した。(5)IP_3によるCa遊離機構は,卵成熟の過程で徐々に発達し,成熟後期にallーorーnone的な伝播性のCa遊離機構が発達し,これが成熟卵としての受精能獲得の一要素であることを明らかにした。一方,未分化血液細胞のサイトカインによる増殖刺激に関しては,即時反応としてCa増加反応の有無を単細胞レベルでCa画像解析によってしらべた。急性巨核芽性白血病細胞由来の細胞株CMKについて,プロスタグランディンE_2,インタ-ロイキン3,GMーCSF(granulocyte macrophage colony stimulating factor)を投与したがしたが,明らかなCa増加増応は観察されなかった。Ca画像解析システムを改良し,再度実験を試みているところである。
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