研究概要 |
本研究の目的は、単層培養条件下で海馬ニュ-ロンに興奮性シナプスを形成させ、可塑性変化を含むシナプス伝達機構およびシナプス伝達に関連する受容体の機能をin vitroの実験条件下で明らかにすることであった。研究の結果は次の三点に要約される。 1.単層培養条件下でラット新生児の海馬CA3,4野とCA1野ニュ-ロン間で興奮性シナプスを形成させることを試みた。海馬を薄切し、CA1野のみを切りわけ酵素処理によりCA1ニュ-ロンを単離し、ついでCA3,4野ニュ-ロンは単離せずに小組織片のままとし両者を混合培養した。約3週間培養した後、CA3,4野ニュ-ロン群を電気刺激し、CA1ニュ-ロンからwhole-cell clamp法により膜電流記録を行い、興奮性シナプス後電流の発生することを確認した。またこのシナプス後電流は時間経過のはやい成分と遅い成分の二つの部分からなり、前者はグルタミン酸受容体のうち非NMDA受容体の活性化によるものであり、後者はNMDA受容体の活性化によるものであることを明らかにした。 2.培養条件下で形成させた興奮性シナプスで、海馬ニュ-ロンの可塑性変化の一つである長期増強が発現させ得るか否かについて検討した。現在までの所、長期増強を安定に発現させることに成功していない。その理由の一つとして、シナプス後ニュ-ロンからwhole-cell clamp法による記録を行っているために細胞内液がパッチ電極溶液で置換され細胞内情報伝達系が正常に機能していないことが考えられる。この問題を解決するためにナイスタチン法を導入し、シナプス後細胞の細胞内環境を保持して実験を行うことを予定している。 3.培養海馬ニュ-ロンに発現するNMDA受容体の特性の一つとして,この受容体の活性化が細胞外液のカリウムイオン濃度の増加により、選択的に顕著な抑制を受けることを明らかにした。
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