我々は平滑筋収縮制御機構において、アクチンに結合したライオトニンが、主役を果たすことを主張し、ミオシン軽鎖キナ-ゼが活性化因子であるとする説に反対してきたが、最近ミオシン軽鎖キナ-ゼを殆ど完全に除去したライオトニン標本を得ることができた。 しかし、ライオトニンの作用機構については今のところ全く不明であり、早急にその輪郭を明らかにする必要があり、このことはまた同時にライオトニン説を確証することでもあるので、この点を留意して実験を行ったが、なお結論に達することはできなかった。 またライオトニンは、分子量その他蛋白化学的にミオシン軽鎖キナ-ゼと類似しており、恐らく両者は同じまたは極めて近い分子種に属するものと思われる。この問題を解決するためにもまずその一次構造を明らかにする必要がある。この課題は昭和61年より筑波大真崎教授と協力してきたが、Nー端側に予期しなかった困難がありなお継続中である。 単離したミオシンをミオシン軽鎖キナ-ゼで燐酸化するとカルシウムなしにアクチンと強く反応し、強力なATPaseを示す。このことが軽鎖キナ-ゼ説の有力な根拠となっているが、このATPase活性は天然アクトミオシンのATPase及び生きた筋のエネルギ-消費より数倍高く、生理的なものと異なる。この違いは主として抽出されたミオシンが、溶解度の減少など、ある種の変性を起すことに基くことから示された。 ライオトニン作用及び軽鎖キナ-ゼ作用の一方のみを抑制する方法を幾つか発表して来たが、benzyl alkoniumがある条件でキナ-ゼのみを強く抑制することが明らかになった。他方ライオトニン作用はtergitolによって強く抑制される。今までの成績を総合するとキナ-ゼ作用は有機カチオンにより、ライオトニンは有機硫酸により選択的に抑制されることが明らかとなった。
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