研究概要 |
ラットの脊髄後根神経節細胞及び脊髄前角細胞の軸索を用いて細胞内骨格蛋白の輸送と動態の解析をおこない以下の結果を得た。 1.軸索内の細胞骨格蛋白には安定重合型,ダイナミック型及び脱重合型が区別され,それぞれ平衡状態にある。これらのうち脱重合した状態が輸送される型であると推定される。 2.細胞骨格蛋白を輸送する遅い軸索内輸送には更に安定重合型が多い遅い成分とダイナミック型に富む速い成分が区別される。遅い輸送の平均速度は週齢が進むにともなって徐々に遅くなる。 3.若齢ラットでは速い成分と遅い成分との分離は見られないが,週齢が進むと両成分が標識後の時間とともに分離してくる。さらに週齢が進んだ老齢ラットでは軸索の起始部に安定重合型に富む大きなピ-クが形成され,遠位側への輸送が見られない。その結果軸索は機能的に細胞体から切り離された状態となり,これが軸索,あるいは細胞体の変性の原困となり得るのであろう。 4.これらの観察から軸索内における細胞骨格蛋白の安定重合型ダイナミック型及び脱重合型の間の相互変換速度は週齢とともに段々遅くなり,老齢ラットでは特にダイナミック型から安定重合型への再変換が殆どおこらず,ダイナミック型は分解されてしまうことが示唆される。 5.軸索が傷害を受けると軸索全体の細胞骨格蛋白は直ちに反応してダイナミック型の割合を増加させ,傷害部位での修復を開始すると同時に輸送速度を速めて修復材料を現場へより速く供給する。やや遅れて細胞体も反応をおこして細胞骨格蛋白それぞれの合成速度をかえる。 6.このように軸索細胞骨格蛋白はこれ迄考えられてきたような変化に乏しい硬い構造ではなく,脱重合型,ダイナミック型及び安定重合型が活発に相互変換を繰り返しているダイナミックな構造であるといえる。
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