研究概要 |
蓚酸は哺乳動物では終末代謝産物であり専ら尿に排泄され,しかもそのCa塩は水に難溶であるため尿路結石の原因となる。最近,常染色体性劣性遺伝疾患である原発性高蓚酸尿症I型(PH1)の原因が肝臓ペルオキシゾ-ムのセリン:ピルビン酸アミノ転移酵素(SPT)の次損であることが明らかとされた。本研究は,1.末だ不明の蓚酸性機構を解明すること,2.ヒトSPTのcDNAおよび遺伝子をクロ-ン化し構造を明らかにすることによりPH1の早期診断等の道を拓くことを目的として開始した。たまたま研究期間中に一人のPH1患者が死亡したので,この患者のSPTーcDNAと遺伝子の解折も行った。蓚酸生成機構に関しては,グリコ-ル酸脱水素酵素が主役が演じているという報告がなされているが,そのような酵素は存在せずグリオキシル酸が直接の前駆体であることが改めて確認された。しかし,グリオキシル酸から蓚酸への酸化能を持つキサンチン酸化酵素,グリコ-ル酸酸化酵素,乳酸脱水素酵素のいずれについても生体内で実質的に蓚酸生成に関与しているという証拠は得られなかった。最近,グリオキシル酸とLーシステインの付加化合物であるチアゾリジン2.4ージカルボン酸から蓚酸が生成することが判明したので,現在この経路の関与の度合を検討中である。ヒトSPTのcDNAを単〓し塩基配列を決定すると共に生合成過程を解折した。ヒトSPTは成熟サイズの産物として翻訳され,且つ培養CDS細胞で発現させると特異的にペルオキシゾ-ムへ移行することから分子内ペルオキシゾ-ム標的シグナルを持つと推定された。調べたPH1患者ではSPT遺伝子翻訳領域にT→C点変異があり,アミノ酸配列にSer→Pro変換が推定された。この点変異の結果新しくSmaI部位が形成されたので,これは利用してこのタイプのPH1の遺伝子診断法を確立した。この患者ではSPTーmRNAレベルは正常の約3倍であるのにSPTはほとんど存在しないことからSPT分解の亢進が推定された。
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