研究概要 |
家兎を用いて急性脊髄損傷モデルを作成し,損傷部脊髄の微細循環動態の変化とその変化におよぼす興奮性アミノ酸の役割についての研究を行った。興奮性アミノ酸のNMDA受容体の阻害剤であるMK801を脊髄損傷後に投与した群(MK801群)と対照群との間で経時的に1)運動麻痺の回復,2)脊髄血流の変化,3)脊髄浮腫の変化,4)脊髄内血管透過性の定量的変化,5)脊髄内カテコ-ルアミンの定量的変化についての比較を行い,以下の結果を得た。1)運動麻痺の回復をTarlov gradeを用いて評価すると損傷24時間後において対照群では2.4±0.25であった。一方,MK801群では3.6±0.25と運動麻痺の有意な改善を認めた。2)レ-ザ-ドップラ-血流計にて測定した脊髄血流の損傷6時間後までの変化は両群とも損傷後,経時的に低下した。損傷,1,3,6時間後の時点で両群間で有意な差を認めなかった。3)乾燥重量法を用いて損傷24時間後までの損傷脊髄内水分含有量を測定し,脊髄浮腫を定量した。損傷1および6時間後の損傷脊髄水分含有量は,対照群では,69.78±0.58%および69.57±0.46%であった。一方,MK801群では67.57±0.37%および68.05±0.47%と損傷1および6時間後では対照群に比し,損傷脊髄の浮腫形成が抑制されたことが示唆された。4)損傷脊髄組織内のFDー70S濃度を用いて脊髄内血管透過性をみると,損傷1時間後の組織内FDー70S濃度は対照群では4.77±0.78μg/gであったが,MK801群では2.94±0.20μg/gと著しく低値を示し,MK801群では損傷早期の損傷脊髄内血管透過性の亢進の抑制がみられた。5)脊髄内カテコ-ルアミンの定量では,両群間で統計学的には有意な差を認めなかった。以上の結果より,興奮性アミノ酸は損傷脊髄内の微細循環動態の変化に影響をおよぼし,急性脊髄損傷後の麻痺形成に関与することが示唆された。
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