研究概要 |
網膜色素変性症に代表される遺伝性網膜変性疾患は大部分が原因不明であり,従って我々は現在のところ有効な治療法を持ちあわせていないのが現状である。これまで本疾患群の原因解明のための形態学的,生理学的な数多くの研究がなされてきたが,その根本的な原因が遺伝子という我々が未だ完全に理解していない領域にあるため,それぞれの手法に限界があり,その原因を理解するに至っていない。そこで本研究は新たに分子生物学的手法を導入し本疾患群の原因解明のための手がかりを得ることを目的とする。本疾患を持つ患者の大部分は臨床的に他の身体部位に異常がなく網膜のみに異常が限局していることから,このような疾患においては網膜に特異的に発現する蛋白質が遺伝的に異常をきたしているものと考えられている。そこで本研究では本疾患を持つ患者の遺伝子を解析することを目的として、それを具体化させるために網膜特異的蛋白質を実際に使用できる形,即ちcDNAとしてクロ-ニングを行なうことと,実際に患者から遺伝子DNAを分離,精製し分子生物学的手法を用いて異常の有無を検索することの2点を主な研究項目とした。第一の項目については網膜特異的蛋白のうちロドプシンや網膜S抗原など既知のもの7種類についてそのcDNAを大腸菌JM109に形質導入し遺伝子DNAの解析に必要な体制を整えた。さらに未知の網膜特異的蛋白質のクロ-ニングのためにヒト脳由来mRNAからcDNAを合成し次のスクリ-ニングへの準備を完了した。第二の項目については網膜色素変性症の患者から遺伝子DNAを分離し解析した結果,ロドプシン遺伝子に突然変異をもつ一家系の存在が確認され,ロドプシン遺伝子の異常により本症が発症しうることを示唆することとなった。これらの研究成果により今後の研究発展の足がかりを得るとともにこれらの疾患の原因解明に向けて前進することができた。
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