研究概要 |
末梢に加えられた痛み刺激は、一次知覚神経の自由神経終末に存在する侵害受容器に興奮を引き起こす。この際生じたインパルスは、脊髄後角へ運ばれ、ここでシナプッスを介し、二次ニュ-ロンに伝えられ上行し大脳皮質知覚領に到達し痛みとして認識される。最近、痛覚を制御する機構が、この末梢侵害受容器から大脳皮質知覚領までの種々のレベルで存在することが明らかにされつつある。本研究では、一次求心性線維内に存在し、痛覚伝達物質として作用すると考えられるsubstance P(SP)の三叉神経脊髄路核尾側亜核浅層領域(SpVc-1,11)での遊離を指標とし、歯痛伝導路の第一次中継核での痛覚伝達制御機構の存在の有無ならびに針鎮痛との関連について検討した。[実験方法]2.5〜3.0kgの雄性家兎を用い、SpVc-1,11に相当するobexより尾側1.5mm、歯髄刺激電極装着歯と同側に正中より2.0mm、深さ1.0〜1.2mm位置にpush-pull cannulaを挿入し人工脳脊髄液で灌流した。また単極記録電極を同部位に挿入し歯髄刺激に伴うSpVc-1,11での神経興奮を電気生理学的に調べた。歯髄刺激は、40V矩形波を用い、100Hz、0.5msec duration、5pulses/train、repetition rate 2Hzで20分間行った。[実験結果ならびに考察](1)歯髄刺激により灌流液中でSP、[Met^5]enkephalin(内因性鎮痛ペプチド)、serotonin(5-HT)量の増加が観察された。(2)歯髄刺激に伴うSP遊離増加は、opioid(morphine、enkephalin)の全身ならびに局所投与、5ーHTの局所投与により有意に抑制された。(3)耳介挙筋への先行電気針刺激(2Hzで40分間)は、歯髄刺激によるSpVc-1,11での誘発電位を全体的に抑制する傾向を示した。これはmorphineを全身投与した時得られた反応とほぼ類似するものであった。現在SpVc-1,11での歯髄刺激に伴うSP遊離増加に対する針先行刺激の影響について検討中である。現在までの研究結果よりSpVc-1,11には内因性鎮痛ペプチドと5-HT系を介する痛覚制御機構が存在すること、また針刺激は本部位での歯痛伝達を抑制することが明らかにされた。
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