研究概要 |
脳でのグリア細胞による神経細胞周辺の微小環境調節機構をモデル系で調べるため,近縁の細胞であるイカのシュワン細胞の神経線維活動に及ぼす影響を調べてきた。特に,シュワン細胞と軸索の間の間隙やシュワン細胞層のイオン透過性を人工的に変化させることができるイカ巨大神経線維標本を用いて実験した結果,次のようなことが明らかになった。 1)軸索外表面のKイオンの蓄積はシュワン細胞と軸索の空間的な位置関係により大きくかわる。シュワン細胞層と軸索に浸透圧勾配を与えると外向きの浸透圧勾配ではKイオンの蓄積が減少し,内向きの勾配ではKイオンの蓄積が増大する。 2)細胞外の溶液のKイオン濃度(シュワン細胞の周りのKイオン濃度)を高めると,軸索外表面のKイオンの蓄積は増大する。Kイオンの蓄積の時間経過から求められるシュワン細胞と軸索の間の間隙の幅(Θ)やシュワン細胞層のKイオン透過性(P)は減少することが分かった。つまり,シュワン細胞の形態がKイオンにより変化することを示している。 3)神経線維を頻回刺激した際の活動電位の発生パタ-ンはシュワン細胞層の性質を表すパラメ-タΘやPの変化に伴い,興奮性の閾値が変化するために発火ミスをも含む様々なパタ-ンを示すことを神経線維用いた実験やコンピュ-タシミュレ-ションにより明らかにした。 4)同様なことが生理的条件下でも起こり軸索から神経の活動状態をシュワン細胞に伝えるメカニズムとしてKイオンや伝達物質の役割が検討されている。又,シュワン細胞が神経の活動に応じて,細胞の体積やKイオン透過性などを合目的的に変化させていると推定している。この研究は日英共同研究として現在進行中である。 5)麻酔剤などの薬物の作用の軸索とシュワン細胞に対する効果を分離して解析する方法を検討中である。
|