研究概要 |
本研究は、『華厳経入法界品』梵文テキストの全面的な改訂を目指すものである。このための準備作業として、梵文・蔵文テキストのワ-プロへの入力を終え、和訳作業もほぼ完成している。その一部(第12,42,45ー53章)を試訳の形で「研究報告書」としてまとめた。大方の批判を受けたい。テキスト校訂は、整理になお時間を必要とするので、公表は今後の課題としたい。なお、校訂作業中に気が付いた点をいくつか列挙しておく。 (1)漢訳に三種あるが、いずれも現存する梵文テキストと比較するとき、多くの異同・欠落が見られる。漢訳は確かに『華厳経』の明確な解釈を提示してくれるが、それが果たして梵文原典の真の意味であるがどうか疑わしい場合が少なくない。三訳は、それぞれ先行する訳をよく参照しており、同意できる訳語はそのまま採用し、理解を異にするものは修正し、欠落部分は増補している。従って、最も新しいと考えられる般若訳『四十華厳』が、他の二訳と比較すれば、概して梵文テキストとよく一致すると言える。しかし、時には現存梵文テキストが現存梵文テキストと大きく相違していたのか、判断に苦しむ。(2)通常逐語訳的性格が強いチベット語訳は、現存梵文テキストとほぼ対応するものの、本経特有の長大な複合語の翻訳に際して、その一部を省略するなど、不備がめだつ。但、現行梵文校訂版の字句を修正するのに、しばしば有力なヒントを与えてくれることは、いうまでもない。(3)漢訳・蔵訳の以上のような問題点は、とりもなおさず、本経典の内容の難解性を示すものである。samavasaranaなど『華厳経』特有の術語、ないし、本経で特別の意味で用いられているvijn^^ーaptiなどの術語がある。いずれ、これらの術語の内容を大乗思想発展史の中で正しく把握できるように努力していきたいと思っている。
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