研究概要 |
研究課題「インド大乗仏教瑜伽行学派における刹那滅論の研究」にかんして、本年度は瑜伽行学派を代表するマイトレ-やアサンガの著作のうち『瑜伽師地論』、『大乗荘厳経論』、『顕揚聖教論』に重点を置き、刹那滅論にかんする資料を収集・整理し、その解読研究を通じて、この学派における時間論である刹那滅論の特色解明に努めた。具体的には以下の如くである。 (1)『大乗荘厳経論』にかんしては、仏教の根本真理の一つである「諸行無常を」「諸行刹那滅」として論証しようとする第XVIII章第82、83偈(刹那滅論証)および第84〜88偈(内なるものの刹那滅論証)の本文校訂とその解読研究を、偈頌・Vasubandhu釈・Sthirtamati釈・Asvabhava釈についておこない、その内容を明らかにした。その研究成果は「無常と刹那(承前)」として近く『南都仏教』に掲載の予定である。 (2)刹那滅論と対立する常住論については、『顕揚聖教論』第4章「成無常品」を中心に「刹那滅と常住説批判」として既に長崎大学教育学部『人文科学研究報告』(No.39;1989,6)に発表した。その常住説を代表する有神論説批判を、『喩伽師地論』および『顕揚聖教論』を中心に解明し、それに関連するサンスクリト語及びチベット語訳の校訂版とともに上記『人文科学研究報告』(No.40;1990,3)に掲載する。 (3)『顕揚聖教論』は瑜伽行学派の刹那滅論を研究するために不可欠の基礎資料である。この論書全体の思想内容を明確にするため、科文を作製する必要がある。本年度の研究成果の一つとして、この科文を作製し、「『顕揚聖教論』の科文」なる論文を発表することができた(長崎大学教育学部『社会科学研究報告』No.40;1990,3)。
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