1。ジュニャ-ナ・シュリ-ミトラの「瞬間的存在性(刹那滅)論証」の基本的構想をテクスト・クリティ-クと翻訳、周辺思想との比較をとおして全資料の約1/3を考察し終えた。 2。A.Thakurの校訂テクスト(Jnanasrimitra:ksanabhangaーadhyaya)にゲッチンゲン・ウィ-ン大学の写本を対校し、全四節(テクストで159ペ-ジ)のうち第一節論証因の主題所属性(paksadharmata)と第二節論証因の肯定的必然性(anvaya)のテキスト・クリティ-クを終了し、計画した第四節は未だ完了し得なかった。校訂テクストはパソコンに入力した。 3。和訳と英訳は上記校訂テクストに関して試訳し、その一部分を発表しつつある。 4。周辺思想に関しては、ウダヤナ(Udayana)のatmatattvaviveka第一章瞬間的消滅性批判を和訳研究した。これによってジュニャ-ナ・シュリ-ミトラの論証の問題点を逆照射することが出来た。 5。ジュニャ-ナ・シュリ-ミトラの論証の特殊性は、論証因の主題所属性のメタ論理〔通常の論理を対象として記述するような論理〕による解釈と瞬間的存在の知覚可能性を問題とするところにある。これらの問題はラトナキ-ルティによって外されたものである。また、このメタ論理による解釈はラトナ-カラシャ-ンティの内遍充論とも一線を画する。この解釈は現代の非実在論的セマンティックスに連動するように考えられる。 6。存在が一瞬のうちに自発的に消滅することを論証しようとする「瞬間的存在性論証」はそれ自体自己矛盾をはらんでいる。論理は対象の自己同一性を前提とするのにかかわらず、これは存在が一瞬もとどまらず非存在へ転換する自己差異性を論証することを狙っているからである。ここに本質論を超える哲学的問題がある。
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