本研究の目的は、一連の実験およびコンピュ-タ-・シミュレ-ションを通して、社会的ジレンマにおける人々の行動についての「構造的目標期待理論」の一層の発展をはかることにあるが、この目的は基本的に達成されたものと考えられる。但し2年継続の研究としての申請が1年分のみ認められたため、当初の目的の一部は今後の研究課題として残されている。ここでは実験の具体的内容について記すのに十分な紙数がないので、実験および実験に対応するコンピュ-タ-・シミュレ-ションの結果から得られた知見とその理論的意味のみを紹介する。(1)これまで4人集団で明らかにされていた道具的協力に対する信頼感の効果は、8人集団および40人集団では弱くなる。(2)ただし40人集団においては、信頼感の効果は基本的協力に対しても道具的協力に対してもほとんど存在しない。(3)高水準の協力を達成するために、アクセルロッドの主張しているような「メタ規範」は必要ではなく、単純な規範ないし非協力者に対する制裁制度が存在するだけでよい。(4)社会的ジレンマにおいて個々の成員が協力・非協力の選択をするのではなく、協力・非協力の選択の基準を定める「戦略」を選択する場合には、制裁制度なしでも自発的な協力が可能となる場合が存在する。つまり繰り返しのあるジレンマ・ゲ-ムであるス-パ-ゲ-ムにおける戦略の選択を繰返し行なう「ウルトラス-パ-ゲ-ム」では、戦略の変更に伴う将棋倒し効果が存在し、そのため個々の社会的ジレンマが線形的なものである場合にも、戦略の選択のレベルではヴァンデクラクト達のいう「最小貢献セット」が発生する可能性があり、そのため戦略の選択が自発的協力の発生につながる可能性がありえる。
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