研究概要 |
幼児が斜線を構成することの困難な原因について、Frye,Clark,Watt,Watkins(1986)はPiagetの説にもとづいて論理操作仮説を提起した。この仮説は、斜線構成が困難なのは空間内の垂直座標値と水平座標値の両方を同時に定めなければならない点にあると考えた。確かに、このような論理的操作の未発達が斜線構成に影響していることは否定できないものと考えられた。しかしながら,斜線構成の問題を、空間認知と、それをコントロ-ルするプランの問題と考えることによって、斜線構成の難しさを規定しているその他の要因を発達的に明らかにした。 6研究(13実験)の結果、以下の点が明らかになった。 1.3歳から4歳半頃の子どもは、方向性に関して無頓着なため、二次元平面に斜線を構成することが困難である。 2.4歳半から5歳半頃の子どもは二次元平面で斜線を構成できるようになるが、それは方向性への注意、行為を修正する能力、構成に先行して斜線をイメ-ジする力があらわれてくることによるものである。 3.5歳半から6歳半頃の子どもは前段階と基本的には同じであるが、プランにもとづいて斜線を含む描画や組合せの問題解決ができる。 4.6歳後半からは、三次元空間に斜線構成させることが適切な課題となる。7、8歳児は視点の移動ができるため正確に近い構成ができる。 5.9、10歳の子どもは、三次元的な視覚情報を統合できるため、正確に三次元空間内に斜線を構成するようになる。 以上の結果から、斜線構成の困難さは、論理操作仮説だけでは説明できず、プランの形成と実行に関係する諸要因(方向性への注意,視覚的イメ-ジ,行為修正能力,情報の取捨選択および統合能力,プラン形成能力)が関係していることが明らかになったと言える。
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