生涯教育・生涯学習は現代社会の重要課題だが、その効果について客観的に測定・評価したものは見当らない。それは、同一の心理検査などを用いて一貫して効果測定をするのに、年齢的に検査によって効用と限界があるためである。そのなかにあって、投影法のひとつの代表としてのバウムテストは実施が容易、一貫して測定可能、被験者に精神的負担が少ない、測定・評価が信頼性・妥当性に富むことがこれまでの研究で明確化された。そこで主としてこのバウムテスト(樹木画)を中心に、幼児期から高齢期(70才代)までを中心として概ね1500名を対象に生涯教育の効果を測定することとした。結果的に、要約して次のことが明らかになった。(1)抽出され樹木での樹冠と幹との比率は、被験者の環境への対処を示唆するが、ここでは、比率がU字型(幹>冠、→幹=冠、→冠>幹、→幹>冠)に加齢的に変化する。(2)画面に対して樹木を抽出する広さ(面積)は逆U字型(小→大→小)に加齢的に変化する。また、画面に対して樹木を抽出する位置は、加齢的にみて、左下→左下→右上・左上といった形で変化していき、全体として、画面下部から画面上部に抽出するといった具合に変移していくことがわかった。(3)特に高齢者について在宅老人と施設収容老人とを比較すると、在宅老人の方が画面に対してより広く大きな樹木を抽出することが見出された。また、中年期ないし熟年期の男女の樹木画を比較すると、女性の方が男性よりもより広く大きく樹木を抽出することも明らかになった。このような概要的結果からみて、(1)高齢者の場合、孤立化せず、家族とともに在宅し、あいるは高齢になっても高齢者対象のシルバ-大学や老人大学等社会的刺激の多い場面に接しているか否かが樹木抽出からみて、より若年層に近い状態を持続していること、(2)中年期では、相対的にみて、社会的ストレスの多い男性の方が樹木抽出が収縮することなどが明らかとなり、社会的中堅層へのストレス解消の健全な方策が課題であることなどが示唆され、生涯教育の重要性を暗示した。
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