今年度は、デュ-イ哲学の存在論的側面に焦点をあて、その現代的意義を検討した。R.ロ-ティ、R.W.スリ-パ-、T.M.アレグザンダ-、R.D.ボイスヴァ-トなど現代アメリカ哲学者の諸著作を中心に、デュ-イの「経験」の存在論の分析・考案を行なった。 1.デュ-イの「経験」に基づいた存在論(自然主義的形而上学)は、絶対的な確実性を求める基盤主義を克服する試みであり、人間が環境との間に生み出すユニ-クな状況のもつコンテクストを重視する「脈絡主義」の哲学である。この立場は、知識・理性を中心にして教育のあり方を正統化しようとする立場を批判・克服するひとつの見解を提示する可能性をもっている。 2.デュ-イの「経験・状況」は相互作用が生み出す脈絡的全体としての「質」によっで特徴づけられる。漠然と感じられた未分解の全体性としての不確定状況の中では、直観・センス・フィ-リングを中心とした「感性的思考(質的思考)」が開始される。探究はこの「質的思考と概念的思考との協働」による状況変容である。探究理論に立脚した教育論は知識・認識論中心ではなく、意味拡充を中心とした経験・状況変容の理論である。 3.探究の終結は、経験の深まりをもたらす美的な完結的局面をもつ。それが「ひとつの経験」であり、過去・現在、質・概念、自我・対象などの統一を生み出す。探究理論に立脚した教育論は、個性的な自我統一の観点を包含する。 今後の課題は、「経験の存在論」と「経験の論理学」を統一したデュ-イの「探究理論」を分析し、それに基づいた教育論の可能性を追求することである。
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