ある症状を癒すために、一人の病人が次々と医師、診療科、医療機関を転々と変えることを「ドクタ-・ショッピング」という。奄美大島(人口約九万人)では、医療機関数や医師数においては本土と比較して量的にそれほどの差異はないが、「ユタ」と呼ばれる祈祷師が常時50人程活溌な病気治療の活動を行っている。彼らはまた、その病人にもっとも適切な医療機関や診療科を占って、クライアントにはその占いの結果に従って受療するように示唆している。ユタの活動は、奄美大島の人々の信仰体系の持続に寄与すると共に、人々の受療行動の活溌化をもたらしてもいる。 人々は、大島島内だけではなく、鹿児島市およびその周辺、北九州・福岡市その周辺、関西、中部、関東地方の主要都市の医療機関でも受療した経験も持っていて、その広域にわたる受療活動に驚かされる。人々の行動はおよそ次のようなものである。島内の基幹病院【double arrow】開業医→島外の病院→島内の基幹病院【double arrow】開業医。このような、島外の医療機関での受療行動を誘い出すものは、(1)島内の基幹病院の不整備および医師への信頼不在、(2)島外の大都市周辺に住む家族、親族、血縁者の、島内の医療機関や医師への不信のため、自分の住む大都市圏での受療を勧めること(3)伝統的な疾病観念(病気はカミや先祖が自分の意志を伝えるために病気にすることがある)のために、性急に病名や病因を知ろうとする傾向が一般的に強い。 ドクタ-・ショッピングは過渡的な現象とも解釈できるが、当面のところ、基幹病院の実質的な充実と、患者に対する医師の充分な聞き取りや病状や予後の説明が必要だと考えられる。
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