研究概要 |
本研究の目的は(1)第一次大戦前におけるイギリスの土地政策ないし「土地問題」を研究し,大土地所有制の崩壊の政策的要因を確定すること、(2)第一次大戦前におけるイギリス土地貴族による土地売却,売得金の内・外証券への投資の実態を分析し,土地貴族の株式・債券保有貴族への転身過程を解明することである。これまでに収集した『イギリス議会史料』(Parliamentary Debates,Fifth Series,House of Lords,vol.1〜43,House of Commons,vol.1〜217)ならびに『土地貴族関係図書』を解読することによってえた主な成果は以下のとおりである。 1、第一次大戦前のイギリスにおいて,土地財産の証券化,すなわち土地貴族による所領売却と売得金の内・外証券への投資が本格的に開始した。このような「資産転換」の要因は経済的諸事情(土地貴族の金融的逼迫)と政策的諸契機(自由党政府の農業=土地政策,財政政策,とくに相続税の重課)に求められること。 2、イギリス土地貴族の株式・債券保有貴族への転身過程は次のような3段階を経て遂行された。(1)W・ハ-コ-トの相続税改正を契機とする第1段階(1894〜1909年),(2)D・ロイド・ジョ-ジの「人民予算」の成立(1910年)を契機とする第2段階(1910〜1914年),(3)「1919年歳入法」を契機とする第3段階(1919〜1921年)。 3、上記の転身過程は時期や方法の点で地域毎に,また土地所有者の階層毎に異なっており,イングランドの巨大土地所有者の経験を性急に一般化すべきではない。 4、転身の第2段階における土地貴族による所領売却の増加は所領売却のための借地農の追放という全く新しい事態を生み出した。このことは「保有の保障」(‘security of tenure')を中核とする新たな「土地問題」の到来を告知している。
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