研究概要 |
ヨ-ロッパキリスト教文化圏の形成過程において、ゲルマン諸部族がどのような伝統と保持しつつ、社会的文化的発展を逐げ、ロ-マの影響を受け、またその遺産を継承して、どのようなヨ-ロッパ文化圏の形成の緒についたか、そのヨ-ロッパキリスト教文化圏のヨ-ロッパキリスト教世界の形成過程における社会と宗教の解明と特質の把握に、本研究の目的を置いた。 1.ゲルマン諸部族の祖先たちの祭祀・定住共同体における社会経済状態とその変遷。森林・沼沢・河川が自然の要害をなし、分散して安定した諸部族のうち、スヴェ-ベン系諸部族についてのTacitus,Germania,c.39に記された宗教儀礼と聖森林信仰,C.40の北海ゲルマン・北ゲルマンの「母なる大地」である豊穣神ネルトゥス、ヒャウケン部族の安住生活と農業生産の発達,5〜7,8世紀の土地の分割相談などを検討した。 2.ゲルマン諸部族とロ-マとの接触。ヒェルスカ-部族に例をとると、その上層にロ-マとの人的交流のあったこと、Tacitus,Annales,1,55,1,60などに記された指導者アルミニウスはロ-マで教育を受け、市民権・騎士階級の地位を得、義弟ゼギムントは「ウビ-ア部族とロ-マ皇帝ウグストゥスの祭壇」の祭司職にあったこと、有力者の家屋敷で、製陶・溶鉱金属加工などの手工業者、ガラス・真鍮製容器などのロ-マからの輸入品を扱う遠距離交易従事者をかかえ、部族の正治的社会経済的関係を実質的に変化させていった。 3.フランク部族の発展と周辺部族、フランク国家の形成過程とキリスト教、役人制。ザクセン部族集団とカ-ル大帝の遠征と勅令、部族法典。とくに「ザクセン部族定住諸地域についての勅」「ザクセン部族の人びと宛ての勅令」についての本格的な考察はわが国では初めてであり、また欧米研究者以上の社会と宗教と法に関する検討を心がけた。
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