研究概要 |
本研究は、前6ー4世紀のインドにおいて、正統派の宗教であるバラモン教に対抗して抬頭した遍歴の修行者「沙門」(Skt.sramana,Pkt.samana)の実態を、その基盤となった社会と、思想史的背景とから解明し、彼らが仏教ヤジャイナ教を成立せしめた諸条件を考究することを目的する。これらの修行者の実態解明の手掛りを得るため、仏教とジャイナ教の古層の聖典:[仏教]=『スッタニパ-タ』(経集)、『ダンマパダ』(法句経);[ジャイナ教]=『ア-ヤ-ランガ・スッタ』『ス-ヤガダンガ・スッタ』『ウッタラッジャ-ヤ-』『ダサヴェ-ヤ-リヤ・スッタ』『イシバ-シヤ-イム』を研究対象として進め、以下のことを知り得た。 1.仏教やジャイナ教の古層の聖典に現われる修行者の名称に、共通な概念と特殊な意味を賦与していることは、両教の修行者が古代インド共通の修行者を基盤として成立し、次第にその特殊化が進んだことを示唆する。 2.沙門の戒は、当時のインド社会の共通の慣習法の基盤に立脚しているが、身・口(語)・意の三業によって、諸根の門を守護して、念正智を具足することによって、主体的で漸層的に解脱を得ようとする実践道を、その特色とした。 3.沙門の説く法は、古代インド社会のダルマの概念を基盤として、彼らの反バラモン的立場から、法の特殊な意味付けを加えた経緯をたどり得る。 4.初期の仏典、ジャイナ教聖典、さらには『マハ-バ-ラタ』等の文献に見出される並行詩脚(parallel pada)の内容的特色を検討した結果、仏教とジャイナ教の戒と教理がその原初形態において共通の基盤を有していたであろうことを推定することができる。
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