申請者は、「法の解明に際しての隣接諸科学の批判的受容」を研究し、その成果の一部を、平成元年度は「価値現象の捉え方ー進行論から考えるーー」(「高岡法学」第一巻一号)に表し、平成二年度は「人間的価値と法ーー比較動物行動学・社会生物学の成果を批判的に受容してーー」(高岡法学(第二巻一号)に表しました。 本年度(平成三年度)は言語学の成果から研究を進めてきましたが、この成果の一部は「言語のあり方と法(仮称)」として表される予定です。この研究は未だ充分に纏め上げられてはいないのですが、その概要は以下の通りです。 先ず、チョムスキ-等の言語学者の想定する言語の深層構造の共通性という考えから、人間における思考、論理の普遍性はどのように語られるものか。人間の精神の働きとしての、推論し、判断し、概念化する能力は、普遍的と考えてよいのか。もしそうであるのなら、そのことは言語と同様に私たちの社会生活の中から生じてくるとも考えられる(実定法以前の)法のあり方の考究にどの様な影響をもたらし得るのか。これらの問題意識とします。 次に、チョムスキ-等の言うように、もし言語が人間という「種に固有な能力」であり、それは経験によって学ばれるのではなく、もともと身につけて生まれてくるものと言われるならば、規範(法)に付いても同様なことが語られる余地はないのか。また、言語が思考、論理と直接対応するものであり、それが人間という種に共有されるものならば、言語に於けると同様に、普遍的に妥当する論理に対応する規範(法)の規則の、意識以前の、存在ということも有り得るのではないか、と考えられます。 そこで、これを論じるために、チョムスキ-等の提示したところが、言語学内部に於いてどの様に捉えられているか、学として充分な整合性を持っているのかを調べ、以って、それに基づく法の考究の可能性への批判を行い、隣接諸科学の成果の一つとしての言語学(チョムスキ-言語学)の、法の考究に寄与する可能性を探るものです。
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