この論文は、研究課題「戦前朝鮮における高等法院による植民地統治法の解釈と適用に関する研究」のもとに作成されたものである。 日本は、一九一九年以来、三十六年間、法律を以て朝鮮を植民地支配した歴史がある。この論文は、この植民地支配に用いられた法律の性格を、判例を中心に実証的に研究したものである。研究方法としては、数多くの統治法のなかから、「治安法」だけをとりあげ、時代を三期間に区分した。即ち、1)「日韓併合」以前の治安法とその判例、2)「併合」後、朝鮮総督府が制定した治安法とその判例、3)日本が太平洋戦争に入った後の制定した治安法とその判例、である。三期間を通じて、「朝鮮高等法院判決録」を中心に、地方法院の判例、大法院の判例など約一六〇例を扱った。 研究を通じて明らかになったことは、つぎの三点である。1.朝鮮で制定された治安法は「植民地支配」を目的としていたこと、2.多くの判例は、植民地の抗日運動を厳しく裁いたことを証明している、3.裁判官は、植民地統治法の性格に何の疑問をもっていなかったこと、があげられる。 この三点から、次の通り結論づけられる。古今東西、人類に普遍的な人権を弾圧することを目的とした法律は、法の本質を欠いているものである。とくに、その立法に際して、意識的に異民族を差別し、支配することを目的とした植民地統治法は悪法である。この悪法に盲従した裁判官の良心は問われなければならない。従って、朝鮮植民地において無実の者を裁いた日本司法府は、明らかに司法過誤を犯しており、その歴史的責任を負うべきであろう。
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