研究論文の骨組みは次の四節からなる。第一節・国際仲裁裁判における少数意見の公表の動向。第二節・常設国際司法裁判所における本制度の導入。第三節・少数意見制の意義と機能。第四節・国際司法裁判所における今日的問題点。 まず19世紀末の国際仲裁裁判での少数意見の実態を調査した。一定した慣行はないが、どちらかといえば、消極的取扱いが強かった(第一節)。常設国際司法裁判所(PCIJ)の創設(1921年)の際には、この制度の導入をめぐって、大きな意見の対立があった。大陸法諸国は概して少数意見制の採用に消極的であった。判決の権威を害するというのが、その理由であった。しかし英米法系の諸国は、この制度の導入は法(国際法)の発展に有益であるとし、結局この立場が採用された。国際司法裁判所(ICJ)の少数意見制は、PCIJの制度をそのまま継承したものである(第二節)。少数意見制には長短がるが、本研究では、主としてその意義と機能を三点に分けて、具体的事例に促して調査した(第三節)。最後にICJにおける少数意見の現状と問題点を調べた。最近の裁判判決には、平均6つの少数意見(反対意見、個別意見)が付されている。(PCIJ時代は平均2つ程度であった。)しかも一つの意見の分量がなり増大しており、多数意見(判決)よりも長文のものが少なくない。また内容的には、判決を厳しく批判するものが多い。この傾向は、本制度の導入時の理解とは掛け離れた実態を示すもので、改めて問い直されなければならない(第四節)。 この一年間の研究で、四節のうち第二節までをほぼ書き終えた。三・四節も資料の調査はほぼ済んでいる。ただ第四節で明らかにされた問題点が、具体的にどのうよな影響を与えるものか、この点はなお調査を要する課題である。
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