研究概要 |
文付申請書「研究実施計画」記載の(1)・(2)については、予定通りPyleやSedgwickの著書、学情センタ-のNACSISIR等で入手した文献情報等を分析した結果、「法と経済学」の従来の研究が主として法執行段階・裁判段階並びに矯正段階での議論への適用可能性を示唆するものの、代表者伊東が書評したPosnerやSchavellの論文ような犯罪論ドクマへの応用はその後の米国においても余り行われておらず、消極的な評価を受けていること、特に、その前提する人間像や市場というセッティングが疑問視されていることが認められた。(3)の西独の理論状況についても同様であることが確認された。(4)については、古典的問題として錯誤を、現代的それとして環境犯罪取締を選び、若干の考察を加えた。前者については個人責任主義原理との牴触問題があり、経済学的アプロ-チの適用は極めて困難であると思われる。後者については、非刑事法的エンフォ-スメント手段の選択基準を含み、かなりの応用が可能と思われる。来年度後半から成果を公表する予定である。以上と並行して行った(5)の大学院講義「法と経済」においては、経済学部奥野教授の協力を仰ぎ、Cooter,Robert&Thomas Ulen,LAW AND ECONOMICS.1988を輪読しつつ、基礎理論の学習を深めると同時に、近時の理論状況の把握・適用可能領域の範疇的把握を試みた。刑事法については、死刑の威嚇効・薬物犯罪取締・刑務所民営化等の極めて現下の問題を検討したが、基礎となるべきデ-タ収集の方法論的問題性・デ-タ自体の欠如等、今後の研究進展上有益な知見を得た。更に、Sen,Rational Fools等により、「法と経済学」の前提する人間像の検討を試みたが、刑事法上での利用には正義論等「法と経済学」の難問が残されていることが確認された。次いで、Axelrod,Evolution of Cooperation等によるゲ-ム理論の学習・刑事法への適用可能性の検討を行った。犯罪者と法執行機関の継続的関係が法執行に与える影響の分析や厳格であるという法執行機関の評判の確立が犯罪抑止に如何に機能し得るか等についてのモデル論的洞察が提示されており、環境犯罪取締における刑事法の利用について積極的感触を得た。
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