研究課題たる「犯罪学の基礎理論」にかかわる諸問題のうち、今年度に研究の重点が置かれたのは、社会逸脱行動の犯罪学的意義、およびソビエトをはじめとする社会主義諸国の犯罪現象と犯罪学の動向であった。 これまで明確な根拠の無いままに犯罪学の対象とされてきた社会逸脱行動について、昨年までの作業(論文「犯罪学の対象としての犯罪について」)に引続き諸側面からの検討を進め、結局は犯罪学における犯罪も「人間の仕業」=刑事責任を伴う行為以外ではありえないことをさらに確認しえた。検討途中での成果の一端として、ソビエトにおける社会逸脱行動の問題状況を雑誌論文として公表準備中である。 近年のソビエトをはじめとする社会主義諸国での全社会的な変動の中で、犯罪現象がいかに推移し、これを犯罪学がどう捉えるかが注目されている。1989年2月に約60年ぶりにソビエトで犯罪統計が公表され、事態の予想以上の深刻化が明らかとなり、またいくつかの犯罪学的検討がなされたことを受けて、その状況を雑誌論文の形でわが国に紹介した。犯罪が社会の病理を指し示す徴表であり、犯罪学が時として国家権力と緊張関係に立つということは、すでに指摘されている事実であるが、ソビエト犯罪学の大きな振幅での展開史はその好実例といえ、犯罪学の基本的性格を考察する上で、重要な検討対象である。そこでの最近の動向としては、一般的・表面的には西側のそれへの接近が見られると言えようが、なお慎重な注視が必要である。犯罪学の基礎理論との係わりで目だったいくつかの特徴については、早急に考察をまとめたい。
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