この度の科学研究費助成金に基づき我が国のハイテク産業を中心に企業訪問した結果、各企業の原価計算システムは、多かれ少なかれ次のような問題点を持っていることが分かった。 意思決定との関係では、商品別・モデル別の原価が不明瞭なため、各製品の原価競争力が分からない。そのために、製品を一度たちあがらすと採算が極めて悪化するまで、生産を中止するか、それとも継続的に生産するかなどの意思決定が出来ない。原価低減との関係では、各部署の原価低減活動が結果として見えない。即ち、原価低減努力が為されても、部門採算に止どまり、商品やモデルの原価に現れない。また原価低減をしようとしても、製品の原価のうちどこを改めたら良いか分からない。企業の国際化・多極化との関係では、海外、国内、関連企業の原価計算基準の不一致がみられ、かなりの対応不足がみられる。最後に、原価計算システムその物に問題がある。たとえば、原価計算が時代の要求に合致しない、営業振替価格が工場の実績と関係なく恣意的に決まる、変動費・固定費の混在により操業度差異がつかみにくい、補助部門費の配賦が不適切などがあげられる。 各企業は、こうした原価計算システムの問題点を解決すべく、一方では原価計算システムの精密化による内枠からの管理と、他方では予算管理の強化による外枠くから管理の二つの戦法を採っている。そこで昭和53/54年の科研と昭和63年度の個人研究費による原価計算実態調査を活用し、今回は東証第一部および第二部の企業を対象に予算管理を中心にアンケ-ト調査も実施した。 このような企業訪問やアンケ-ト調査に基づき、国際経営戦略の下でのハイテク産業における原価計算システムの理論および実践的研究成果について、横浜国立大学経営学会の『横浜経営研究』を通じ発表していきたい。
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