アメリカにおける会計監査は、自発的(任意)監査を基調とし、法廷(SEC)監査が展開してきたという歴史的背景をもっている。若干の例外を除けば、会計監査に影響を与えた訴訟事件は、法廷監査を受けていた大会社での経営者不正であった。事件の研究には、判例と会計・監査強制執行通牒(82年以前は会計連続通牒)が参考になる。しかし、88年4月の監査基準書の改正はSECの規制対象外にあった非公開の中小会社や預金貸付組合での粉飾あるいは倒産事件を契機として生じた期待ギャップの解消を狙うものであった。期待ギャップが何故に生じたのか。個々の事件の具体的内容に関しては判例の収集に努めたが十分な成果をあげることができなかった。 そこで、全国不正財務報告委員会報告書(87年)や会計・監査強制執行通牒の中から中小のSEC規制対象会社での経営者不正や倒産事件を手掛かりとして本研究課題を進めることにした。まず88年4月の9個の改正(新)監査基準書から重要なSASを選び研究に着手した。その1つが53号であり、AICPAが監査人の誤謬・不正摘発責任に対して主張してきた見解の変化を50年に渡って整理し、今回のSAS53号の特徴を指摘し大学紀要に報告した。次に期待ギャップの発生の原因となったSAS59号の継続企業監査の問題をとりあげ、監査研究学会12回西日本部会(同志社大学)で報告した。さらに、現在SAS55号を研究しているが、その理解のために若干遠回りであるが、SAS47号と31号の理解が必要であるので、SAS47号での監査リスクと重要性の問題を検討している。
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