「整数論と代数幾何学」の課題名で、この一年、科学研究費補助金の援助をいただいた。以下、研究の進展について概略を説明したい。 筆者はここ数年来、混標数の環、例えば整数環ZLあるいは、P進整数環ZLpの上の代数多様体の研究に従事しているが、本年度は、標数p〉Oの体の上の代数曲線のp^n次巡回被覆の持上げに関する、関口力氏(中央大学理工学部)との共同研究に力を注いだ。最終的な結果にはまだ程遠いものの、途中段階での結果の豊富さは、この研究の興味深さを示しているものと考えられる。得られた結果は別紙に記載の通り次々に論文の形にまとめられているが、下記の三点に要約できよう。 (1)標数p〉Oの体の上の代数曲線のp次巡回被覆の持上げの理論は完成しており、代数曲線の有限ア-ベル被覆を代数群によって制御するという、Sラングの類体論の思想を実現した。この結果の応用として、ガウス和に関するグロス-コブリッツの公式の別証を与えた。 (2)標数p〉Oの体の上の代数曲線のp^n次巡回被覆の持上げを系統的に扱うには、ヴィット算法の変形を決定することが必要である。このための基礎作業として、体の上では古典的な、基本的な代数群の拡大の決定を、離散付値環の上で完成した。 (3)離散付値環の上の代数群について議論を展開すると、必然的にその剰余環の上の代数群を扱わなければならなくなる。巾零元をもつ環の上の代数群の理論を構成するとき、カルチェの双対定理を考えれば、形式群を並行して扱うことが自然である。これについては、体の上では起こり得なかった興味深い現象を見出した。
|