研究概要 |
純金属Scの核スピンの磁気秩序を実現し,その磁気秩序状態を種々の測定手段で観測し研究することが当研究の目的である。純金属の核スピンはその磁気モ-メントの小ささから一般に〜nKからpKの温度領域になることが予想され,電子系の磁性には現われなかった弱い相互作用も大きな影響を与える可能性がある。しかしこの様な超低温の生成は二段断熱消磁冷却法等を用いる必要があり技術的にも大変困難である。したがってこれまで世界で成功したのはヘルシンキグル-プのCuだけである。我々のScは電気四重極相互作用も働いており,又電子間の相関も強い物質でありCuに比べてより豊富な興味ある現象を与えてくれるものと思う。我々は前年度作成した二段断熱消磁冷却装置を用いて先ずScの全体の帯磁率の温度変化を250μK以上で測定した。その結果約0.8mKにピ-クを持つ帯磁率が観測された。次に二段断熱消磁冷却でScの核スピンを約50uk程度まで冷却してその後の温度上昇に伴う帯磁率を測定した。その結果Scの核スピンの反強磁性秩序状態への転移と思われる帯磁率の温度変化を測定した。しかしこの実験では温度に関しては推定温度である。0.8mKの帯磁率のピ-クはScに含まれるFe不純物のスピン・グラス転移によるものと解釈出来る。核スピンの反強磁性は未だスピン構造も,相互作用についても,又転移温度も情報を得ていない。しかし技術的に困難な核スピンの秩序状態を実現出来たので,今後実験を進め,又理論的研究とも共同で研究を進めることによりScの核磁気秩序状態に関しての綜合的な理解を得たい。又その研究の中に新しい発見が,或いは新しい概念が生じてくることを期待している。
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