研究概要 |
前年度(平成元年度)までは,透過型電子顕微鏡を用い,格子構造像および回析像を撮ることにより,実空間およびk空間の両面から,AgーMg合金の逆位相長周期構造がどのような経過を辿り形成されるかを観察した。本年度(平成2年度)においては,得られた格子構造像および回析図形の解釈に重点を置いた研究を行った。すなわち,観察した格子構造像および回折斑点の相対強度を評価し,場所に依存した秩序パラメ-タの値を求め,格子構造像の詳細な計算機シミュレ-ションの結果と比較検討を行った。その結果,無秩序相から逆位相長周期構造(M【similar or equal】2)が形成される過程は,通常の1次相転移の場合におけるような核生成・成長の機構とは異なり、まず初めに逆位相長周期構造とほぼ同じ平均周期を持つ,高秩序度の部分と低秩序度の部分が周期的に層状をなす,準安定な構造が形成され,その後次等に秩序化が進み,逆位相長周期構造が出現するという機構によることを見出した。さらに,本研究で見出された,規則化した部分と無秩序の部分が周期的に層状をなす構造を経由する,これまでに報告例のない新しいタイプの秩序形成過程は,Fermi面の(110)方向の平らな部分なおけるネスティングに起因して生じるものであると解釈出来ることを示した(Phys.Reu.B42,Rapid Communicat 本研究で得られた上記の結果は,合金の逆位相長周期構造の成因・安定性に関して,Fermi面近傍の電子の果す重要な役割を示唆するものである。加えて,金属物理学における理論面に対しては,対相互作用エネルギ-的取り扱いのもつ近似の限界等に関して,また,応用面に対しては,人工超格子の作製の際,その安定性に関して,新たな知見を与えるものと思われる。
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