研究概要 |
1.はじめに我々は人工物質に注目し,イオン結晶と2次元超イオン導電体から成る超格子物質中での縦の集団運動モ-ドを調べ,更に有限な厚みを持つイオン結晶と超イオン導電体から成る超格子物質中での集団運動モ-ドも調べた.これらの人工物質を作ったとき,各々の物質の構造や動的振舞いがいかに変化し,それらのことが人工物質のイオン伝導現象にどのように影響するかということは基礎物性的にも,応用的にも,重要なことである.我々は2種類の超イオン導電体AgI,Ag_2Sから成る超格子物質を考え,その物質の動的及び静的性質についての微視的知見を得るために,体積一定の分子動力学(MD)法による計算機シミュレ-ションを行った。計算は直方体(19.92×19.92×39.84A^^O^3)の箱中の640個(Ag384個+I128個+S128個)のイオンからなる系について行われた. 2.計算結果 c軸(z軸)に沿って、AgI部分は縮み,Ag_2S部分は伸びていることが分かった.そして,Ag_2S部分中の約3%のAgが,AgI側へ移動し,電気二重層を形成する形で界面近くに分布している.このことによる動的性質への影響は顕著である.AgI部分のAgの拡散係数は単体AgIに比べて,約40〜50%減少するのに対し,Ag_2部分のAgの拡散係数は単体Ag_2Sに比べて,約20〜30%増加した.特に,界面付近では拡散係数にかなりの非等方性がみられた.つまり,xy面に平行な方向の拡散係数の値はz方向の値より2倍程大きい.この超格子物質のイオン伝導度は単体AgI,Ag_2Sのいずれよりも大きい値を示した.これらの計算には,密度分布等に不十分なところがあり,改善されなければならないところはあるが,イオン伝導度の高い人工物質の実現の可能性を示唆している. 3.将来に向けて この研究では,体積Vが固定されたMDセル中の粒子の運動方程式が計算機によって解かれた.しかし,通常の実験は温度一定,圧力一定即ち(T,P,N)のもとで行われる.従って今後の問題として圧力一定のMDを実行する必要がある.
|