研究概要 |
Exchangeーcorrelationポテンシャルを一体の有効ポテンシャルで置き換えるバンド理論は、どこまで正しく電子構造の情報を与えてくれるか、また、さまざまな手法がバンド構造の計算で駆使されているが、その計算精度はどれほどであろうか。そうしたバンド構造の計算の近似の良否に評価を与えるひとつの実験が、当研究対象の磁気コンプトンプロファイル法である。この実験の特色は、X線のコンプトン散乱微分断面積が、X線が円偏光している際には、電子スピンの向きに依存することを利用して、強磁性体中の磁性電子のみの運動量分布が測定されるところにある。 円偏光X線光源として、KEKーARリングのNE1ビ-ムラインに設置されたEliptical Multipole Wigglerを利用し、60keV,円偏光度0.7,試料上光子数約10^<11>photons/secのX線を得た。Fe+3%Si単結晶の<100>,<110>,<111>方位、Ni単結晶の<100>,<110>,<111>方位の磁気コンプトンプロファイルを、極めて高い統計精度で測定することに成功した。 実験と平行として、Fullーpotential limearlized AugumentedーPlaneーWave(FLAPW)法によるバンド構造の数値計算を東大大型計算機センタ-を利用して行い、従来のバンド計算では説明しえなかった磁気コンプトンプロファイル(Fe,Ni)の詳細を見事に再現した。一致の得られた理由は従来のバンド構造の計算での運動量表示の波動関数を、より大きな運動量成分まで取り入れて展開したことによることが明らかとなった。このことから、従来懸念されていたことに反し、Fe,Niの磁性電子の運動量分布(コンプトンプロファイル)に対して、一電子近似に基づくバンド理論は有効であることが実証された。なお当研究成果の一部は1989年8月に米国のゴルドン会議(Xーray Physics)において招待講演した。
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