多くの海峡谷は、陸棚縁に深く切り込んで存在しており、水平的には底層水が陸棚水と接する場となる。最近の観測では海峡谷内の海底付近に非常に強い潮流が見つけられ、内部波動に依るものと判断されている。申請者は東大海洋研究所太田秀教授、東大地震研究所日比谷紀之助手との共同研究で、駿河湾海峡谷北部の海底付近に流速計を係留し、内部波の水平及び鉛直構造、エネルギ-伝播特性などを明らかにすることを試みた。観測により次のことが判った。(1)半日及び一日周期成分、が卓越する。(2)高周波の6時間周期も存在するが、振動方向はV字型の海峡谷の横断する向きである。(3)場所・深さの違いに依り卓越周期は異なり、海底直上でエネルギ-・レベルが最も高い。(4)卓越周期は時間と共に変り、大潮・小潮の14日周期は顕著でない。以上のことが明らかになった。観測結果の物理的な理解を深めるため、連続成層モデルを用いた数値実験を行なっている。モデルは伊豆海嶺北部の浅瀬を内部波動の発生域とし、駿河海峡谷内への内部波エネルギ-の伝播過程を追跡している。エネルギ-は斜め上方及び斜め下方に伝播するが、その角度と海底勾配の大きさから前方もしくは後方反射が決まる。海底地形の複雑さが、駿河湾海峡谷の内部波動を複雑化していることが示された。 内部波の水平分布の特徴を明らかにする目的で、二層モデルに依る数値実験を実施した。具体的には、駿河湾と相模湾の内部潮汐の卓越周期の違いを数値モデルにより示すことにある。伊豆海嶺北部で発生した内部潮汐は、半日周期は慣性重力波の性質を持つから、両湾に進入できるが、日周期はケルビン波としか振舞えないので、駿河湾にしか進入できない。このことは観測結果を旨く説明できる。
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